「青春のシンボル」といわれる尋常性ざ瘡(ニキビ)。かつては、疾患としての認識が低く、患者は一般用医薬品などで対処するのが一般的でした。しかし、2008年に「尋常性痤瘡治療ガイドライン」が登場するとともに、さまざまな薬剤の開発によって治療レベルが向上しました。ガイドラインはその後も改訂を重ね、尋常性ざ 瘡の治療は確立しつつあります。たかがニキビ、されどニキビ―― 尋常性ざ瘡の薬物治療についてまとめます。

尋常性ざ瘡の原因と進行段階

「尋常性痤瘡治療ガイドライン2017(以下、ガイドライン)」では、尋常性ざ瘡(ニキビ、アクネ)は『思春期以降に発症する顔面、胸背部の毛包脂腺系を場 とする脂質代謝異常(内分泌的因子)、角化異常、細菌の増殖が複雑に関与する慢性炎症性疾患』と定義されています。尋常性ざ瘡の段階は、大きく分けると、非炎症性(微小面めん皰ぽう、面皰)と、炎症性(紅色丘疹、膿疱、囊腫、硬結)の2つになります(図1)。

尋常性痤瘡治療ガイドライン2017をもとに編集部作成

[皮疹数で重症度分類]

⃝ 好発する年齢と部位
尋常性ざ瘡は思春期の男女に多く見られます。好発部位は顔面のほか、前胸部、上背部です。これらの部位に好発する背景として、「脂腺性毛包」と呼ばれる毛包があるためといわれています。脂腺性毛包は、毛が細く皮脂がつまりやすい毛包です。

⃝ 重症度判定基準
主に炎症性皮疹を対象にした、皮疹数による判定方法と写真によるグローバルな判定方法があります。ガイドラインでは、尋常性ざ瘡の重症度の判定基準として以下の4種を掲げています。

軽症:片方の顔面に炎症性皮疹が5個以下
中等症:片方の顔面に炎症性皮疹が6個以上20個以下
重症:片方の顔面に炎症性皮疹が21個以上50個以下
最重症:片方の顔面に炎症性皮疹が51個以上

尋常性ざ瘡の思春期後の経過
QOLを低下させる瘢痕となる可能性も

ざ瘡は、通常20代の前半から半ばまでに自然に消退しますが、40代までざ瘡が残るような患者さんも一定数いるといわれています。こうした患者さんでは、ざ瘡が残っていることを、難しい人間関係への対処を避ける言い訳にして引きこもる方もいるようです。ざ瘡の重症例などでは、患者さんおよびご家族に対する支持的なカウンセリングが適応となることもあります。
また、炎症所見後に現れる紅斑は一時的な症状で、後に消失するものもありますが、囊腫や硬結といった強い炎症を伴う尋常性ざ瘡の場合、囊腫や線維化病変として残る可能性があります。さらに、萎縮性瘢痕または陥凹性瘢痕と呼ばれる皮膚の陥凹や、隆起、色素沈着といった症状は、いわゆるニキビ痕(瘢痕)として残る可能性があります。尋常性ざ瘡の瘢痕は、身体的なものだけではなくQOLを低下させる原因となってしまいます。
しかし、尋常性ざ瘡の瘢痕に対する標準治療はまだ定まっていません。瘢痕に対する治療選択肢として、トラニラスト(ケロイド・肥厚性瘢痕治療剤)やステロイド局所注射、充填剤注射、ケミカルピーリング、外科的処置(外科的切除や冷凍凝固療法)が挙げられていますが、いずれも推奨度は高いとはいえません。

尋常性ざ瘡の治療
各治療薬の特徴を理解する

尋常性ざ瘡の治療は、原則3ヵ月までの急性炎症期の治療と、その後の維持期の治療という大きく2つに分けて考えられています。さらにその中で症状別に治療選択肢が色々と設けられています。「尋常性痤瘡治療ガイドライン2017」で推奨される、尋常性ざ瘡の症状別の主な治療法は表1の通りです。また、各治療薬について、表2にその特徴をまとめてご紹介します。

尋常性痤瘡治療ガイドライン2017をもとに編集部作成
各製品添付文書、尋常性治療ガイドライン2017をもとに編集部作成

尋常性ざ瘡における日常生活でのケア
化粧品、洗顔、食事指導のポイント

尋常性ざ瘡のスキンケアに関する研究報告は数多くありますが、「強く推奨する(推奨度A)」とされる知見はいまのところありません。しかし、食事や洗顔などについて、現時点で重要と考えられている対処をご紹介します。

[尋常性ざ瘡用基礎化粧品]
「低刺激性」、「ノンコメドジェニック」、「保湿性」などの機能を備えた尋常性ざ瘡用基礎化粧品と治療薬の併用によって、治療薬による皮膚への刺激が緩和され、治療効果が高まることが期待できます。このことから、尋常性ざ瘡用基礎化粧品は患者のスキンケアの選択肢の1つとして推奨されています。
また、女性の尋常性ざ瘡患者ではQOL改善の目的で、低刺激性でノンコメドジェニックな化粧品を使って行う化粧(メイクアップ)の指導がスキンケアの選択肢の1つとして推奨されています。油性の面皰形成性のある化粧品(コメドジェニック)により、ざ瘡が悪化するというケースがありますが、大規模な調査は行われておらず、全ての化粧を禁止する明確なエビデンスもないというのが現状です。

[洗顔]
海外の研究で、1日2回の洗顔を1回にしたことで症状が悪化した例があります。一方、1日4回の洗顔を行った群で脱落例が見られたという報告もあります。こうしたことから、1日2回の洗顔が推奨されています。洗顔による皮脂の除去は、尋常性ざ瘡の予防として合理的と考えられています。
また、国内ではオイルクレンジングによって皮疹の数が改善し、悪化例はなかったという研究報告があります。これを踏まえ、オイルクレンジングは安全に使用できるメイク落としの候補の1つになっています。消毒薬などの抗菌作用のあるもの含有した洗浄剤や、刺激性に配慮した洗浄剤については、感作性や刺激の観点の検討がまだ十分になされていません。

[食事指導]
尋常性ざ瘡と食事の関係については以前からさまざまな研究が行われてきましたが、現在、尋常性ざ瘡の患者に対して特定の食事指導を行うことは推奨されていません。海外のシステマティックレビューでは、特定の食物と尋常性ざ瘡の関係は明確ではないと結論されています。
また、尋常性ざ瘡患者に特定の食べ物を一律に制限することも推奨されていません。たとえば、身近な嗜好品の1つであるチョコレート。ざ瘡と食べ物の関係を調べた数少ない無作為化比較臨床試験では、尋常性ざ瘡の悪化因子になることは否定されています。ただし、100%カカオパウダーの負荷試験で尋常性ざ瘡を誘発したとする報告もあるにはあります。世界各国で食されている食べ物だけに、これからも尋常性ざ瘡との関連性についての新知見が待たれます。
ほかにも、ざ瘡の発症因子として牛乳について述べられたコホート研究もありますが、検討の余地があるようです。個々の患者の食事指導では、特定の食物摂取と尋常性ざ瘡の経過との関連性を十分に検討して対応することが望ましく、極端な偏食を避け、バランスのよい食事を摂取することが推奨されています。

ガイドライン策定や新規治療薬の開発により尋常性ざ瘡治療が発展
QOL低下の観点からしっかりと治療を

日本人の90%以上が経験する尋常性ざ瘡は、これまで「青春のシンボル」や「単なる生理的現象」などとして軽視され、皮膚疾患としての認識が十分ではありませんでした。そのため、尋常性ざ瘡で医療機関を受診する患者は約10%に過ぎませんでした。
一方、早期の治療によって瘢痕が予防できることを示唆するデータが示され、2008年に尋常性痤瘡治療ガイドラインが策定されました。また、同時に新たな治療薬が開発され、エビデンスに基づいた適切かつ標準的な治療法の選択基準が提示されるようになりました。こうした経緯を経て、尋常性ざ瘡の治療レベルは向上しました。今後も、より有効性が高く、副作用の少ない薬剤の開発が望まれています。また、ガイドラインには、薬剤耐性菌回避のために抗菌薬治療の適正化対策の推進を目指す旨が記載されています。
尋常性ざ瘡は他の疾患と同様に患者のQOLを低下させます。中高生ではいじめの原因にもなりうる疾患です。ニキビ程度と軽視せずに、しっかりとした適切な治療で症状をコントロールすることが重要になります。

参考資料
林伸和ほか. 日皮会誌 127(6); 1261-1302, 2017
林伸和. 薬局 68(3); 433-438, 2017
MSDマニュアル プロフェッショナル版 尋常性ざ瘡

column ざ瘡と似た疾患 酒皶(しゅさ)

尋常性ざ瘡と似た症状が疾患に酒皶がありますが、主に思春期が発症時期の尋常性ざ瘡と異なり、酒皶は主に中高年で発症する慢性炎症性疾患です。紅斑や毛細血管拡張、火照り感などから「赤ら顔」とも呼ばれる症状で、ざ瘡に類似する丘疹や膿疱が見られるため尋常性ざ瘡と混同しがちですが、酒皶は面皰を伴いません。
酒皶の治療として、外用薬のメトロニダゾールやアゼライン酸、内服薬のドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリンが用いられることもありますが、適応外のものもあり、推奨度は高くありません。酒皶の増悪因子は、紫外線や外気温の急激な変化、刺激のある食べ物やアルコールの摂取などが知られています。そのため、酒皶には、適切な遮光や、低刺激性の洗顔料、保湿剤の使用についての指導するスキンケアが望まれます。