監修
東京医科大学病院 皮膚科 教授
伊藤 友章 氏

アトピー性皮膚炎の治療では近年、寛解導入療法における新たな外用薬、難治例に対するJAK阻害内服薬や生物学的製剤が次々に登場し、治療効果や副作用のみならず医療費の負担も考慮した治療選択がますます重要になっています。今回は、変化するアトピー性皮膚炎の治療のなかで、疾患の特性や治療選択の判断、患者指導、薬薬連携などについて、東京医科大学病院 皮膚科 教授 伊藤友章氏にお話を伺いました。


湿疹の発生を繰り返し 汗をかくとかゆみが出る

 アトピー性皮膚炎では、特定の部位に左右対称に湿疹が発生し、増悪や軽快を慢性的に繰り返します。また、健常者では汗をかいても皮膚がかゆくなることはありませんが、アトピー性皮膚炎の患者では発汗異常が発生しているため、汗をかいたときに強いかゆみを感じます。アトピー性皮膚炎患者の多くは強いかゆみが出るのはごく普通のことに感じていますので、診察の際に汗によるかゆみは通常ではない点を指摘すると驚かれることがしばしばあります。

皮膚の状態から診断 重症度評価は医師も患者も

 アトピー性皮膚炎の診断においては、小児では主に顔面、成人では肘窩、膝窩の特徴的な部位から発症します。乳児では2カ月以上、幼小児期以上の年齢層では6カ月以上、反復性かつ慢性的な症状がみられればアトピー性皮膚炎と診断します。通常は皮膚をこすると赤くなりますが、アトピー性皮膚炎の場合にはからだを掻くと皮膚が白くなるというのも臨床上の特徴です。

 重症度評価では、医師による評価だけでなく患者による評価も行います。医師による評価では、頭頸部、体幹、上肢、下肢の皮疹の面積、各部位での紅斑、浸潤/丘疹、掻破痕、苔癬化を評価し、湿疹面積・重症度指数(Eczema Areaand Severity Index;EASI)を算出します。患者によるかゆみの主観的な評価においてはNumerical Rating Scale(NRS)、かゆみ・睡眠障害・皮膚の状態については質問票のThe Patient Oriented Eczema Measure(POEM)、疾患の包括的なコントロール状態はAtopic Dermatitis Control Test(ADCT)なども用いて総合的に評価します。治療効果の評価においては、診察時に患部の写真を撮影してEASIスコアを記録し、患部の状態や治療による変化を医師と患者が一緒に見ていくことができるようにしています。

 診断や病勢の評価で参考となるバイオマーカーには、血清中のIgE値、TARC値、SCCA2値、LDH値や末梢血好酸球数などがあります。アレルギー素因がある場合にはIgE値が高値となるため、IgE値は指標とすることはできません。TARC値は重症度にともなって上昇し、病勢を反映するためバイオマーカーとして使用可能ですが、小児では年齢によって基準値が異なります。SCCA2値は15歳以下に保険適用があります(表1)

最も重要な寛解導入療法 外用薬を塗れているか?

 アトピー性皮膚炎は慢性疾患ですので、治療を継続することがまず重要です。治療費用の負担についての付加給付金や高額療養費などの制度を知らない患者が多いため、当院では医師が治療費について説明し、どのような治療が継続できる環境にあるのかを患者に確認するようにしています。

 アトピー性皮膚炎の治療において最も重要なのは寛解導入療法で、外用薬をいかにきちんと塗れているかが主軸になります。治療費関連の情報収集には数週間ほどかかりますので、その間、アレルギー疾患療養指導士(Clinical Allergy Instructor;CAI)の資格を有する看護師やその他の看護師が外用薬の塗り方を患者に指導しています。最近では、外用薬による基本的な治療を実施せずに費用負担が大きい新薬を突如使用したがために、治療効果が得られずに治療から脱落してしまう患者が多くいます。まずは、アトピー性皮膚炎治療の基本となる外用薬をしっかりと使用し、次の治療が必要となる段階に進ませないようにすることが非常に大切です。

2~3週間の外用薬使用後にその他の薬剤も検討する

 患者に対して外用薬を指導した後、約2~3週間で外用薬の効果が分かってきます。当院では、外用治療を行ってもEASIスコアが30程度の患者に対しては、JAK阻害薬や生物学的製剤などの新薬について説明しています。患者には「皮膚をつるつるにしたい?」といった確認の仕方で、その希望があれば注射薬の生物学的製剤としてデュピルマブ(デュピクセント)やトラロキヌマブ(アドトラーザ)などの投与を考慮します。注射は嫌いだけれども皮膚がかゆいので早くかゆみを止めたいという患者では、内服のJAK阻害薬を考慮します(図)

ステロイドで一気に改善させ
デルゴシチニブやジファミラストへ移行

 皮膚のバリアがないと感染症やヘルペスなども発生してしまうため、まずは外用薬により一気に症状を改善させることが重要です。外用薬は、顔の赤みなどの症状が強いときにはステロイドを使用します。タクロリムス(プロトピック)は効果はありますが、皮膚が滲みる方がいるので、症状を見ながら使用を考慮します。

 ステロイド軟膏で改善が得られた場合には、JAK阻害薬のデルゴシチニブ(コレクチム)軟膏やPDE4阻害薬のジファミラスト(モイゼルト)軟膏に切り替えますが、切り替えの方法は患者ごとに異なります。デルゴシチニブ軟膏は生後6カ月、ジファミラスト軟膏は生後3カ月から使用可能で、安全性は高い一方で効果が強くはないと考えられているため、あくまでステロイドで症状を改善させたうえで、維持療法のような位置づけで使用しています(表2)

 外用薬はしっかりと塗らないと症状が改善しないため、ステロイドに加えワセリン、ヘパリン類似物質などの保湿剤を含めて1日合計20g、1カ月で合計600g程度になるように処方します。ステロイドについては部位ごとに塗布するステロイドのランクが異なるため、塗布部位と薬剤の組み合わせを間違うことがないように指導します。1日2回塗布が基本ですが、外出前に外用薬を塗布するとベタベタとした使用感が気になると訴える患者では、夜の入浴後にしっかりと塗布するよう指導することもあります。

 アトピー性皮膚炎の患者の症状が悪化する時期は個人差があります。夏の汗をかきやすい時期に悪化する、冬の乾燥した時期に悪化する、日常のストレスが強い時期に皮膚をひっかいてしまい悪化する、など個々で異なります。症状の悪化を防ぐため、症状が悪くなりやすい時期には通院間隔を短くするように調整し、外用薬が塗れているかを第三者が評価することにより患者の意識も高めてもらうようにしています。また、風邪をひいて症状が悪化した場合などには、すぐに受診するように説明しています。

JAK阻害薬はかゆみを止める 特に高用量の副作用に注意

 JAK阻害薬の内服薬にはバリシチニブ(オルミエント)、ウパダシチニブ(リンヴォック)、アブロシチニブ(サイバインコ)の3剤があります(表3)。最適使用推進ガイドラインにあるとおり、施設や医師に関する要件を満たした場合のみ扱うことができ、投与に際しては血液検査や画像診断などによる安全性のモニタリングも必須です。

 バリシチニブの2mgや4mgの投与は、比較的安全に使用可能で、かつかゆみが止まるため、患者の満足度は高くなっています。そのため一般クリニックでも比較的使いやすいともいえます。アトピー性皮膚炎では円形脱毛症を併発していることもありますが、バリシチニブは円形脱毛症にも適応があるため、治療中に患者の髪の毛が生えてくることによる満足感も得られます。

 私見と治験メタ解析の論文によると、ウパダシチニブ15mgとアブロシチニブ100mgの治療効果は同程度の印象で、それより多い投与量としてはウパダシチニブ30mgとアブロシチニブ200mgがありますが、投与量が増えるにつれ、副作用も相当のものが発現すると考えられます。ウパダシチニブやアブロシチニブは、副作用が発現した時に対応してくれる病院と連携しておくことが大切です。

JAK阻害薬の副作用や治療の継続期間は課題

 JAK阻害薬の投与時には、起こりうる副作用の全容を患者に説明しています(表4)。免疫系にも影響を与えますので、例えば帯状疱疹を発症した、風邪をひきやすくなったなど、通常と異なる身体状況を察知した場合にはすぐに連絡するよう患者に伝えています。なお、感染症のリスクが高くなるため、65歳以上の患者にはJAK阻害薬は処方していません。

 JAK阻害薬の服用をどの程度継続してよいのかも、現在、世界的な課題となっています。女性患者は妊娠すると中止しなければならないなど、ライフイベントが生じたときにJAK阻害薬の処方をどうするのかといった課題もあります。

 

 経口薬ではかゆみを止めるためにJAK阻害薬より安価なシクロスポリンを使うことがありますが、長期投与により腎障害が生じると考えられていますので、不可逆的な腎障害が起きないように注意深く観察する必要があります。経口薬の医療費負担が問題となる場合には、外用薬を使用してもかゆみがひどい場合に保険のルールに従って、短期間のみシクロスポリンを処方することもあります。

生物学的製剤の使い分けは目のかゆみなどの副作用を鑑みて

 既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎に対する生物学的製剤として現在、デュピルマブ(デュピクセント)、トラロキヌマブ(アドトラーザ)、ネモリズマブ(ミチーガ)の3剤に加え、2024年にはレブリキズマブ(イブグリース)が承認されています(表5)

 ネモリズマブは皮膚症状に直接働きかけるのではなくアトピー性皮膚炎によるそう痒が効能・効果となっています。当院では、現在デュピルマブ、トラロキヌマブの2剤を中心に使用しています。患者には効果と副作用を説明し、医師が患者にとって最適な生物学的製剤を選択します。自己注射に関しては看護師によるトレーニングを2回実施したうえで、自己注射ができると判断される患者に対しては自己注射とします。

 当院におけるデュピルマブの投与対象は、外用指導を行ってもEASIスコアが40以上の患者としています。デュピルマブはTh2タイプのシグナル伝達経路を阻害するため、身体の皮膚症状は改善しますが、顔の赤みなどは残る場合があります。また、最近の研究では、目の潤いに関与するムチンが減少してドライアイになり目のかゆみが生じますので、治療時には必ず眼科と連携しています。

 デュピルマブは数カ月程度の使用では皮膚症状の改善が得られないため、1年~1年半は使用を継続する必要があると考えています。比較的症状が安定している場合、投与間隔を少しずつあけていくことで治療費を低減することも実臨床ではあり得ます。なお、かゆみを評価指標とし、かゆみスコアが高いような場合には投与間隔をあけることはできません。

 トラロキヌマブでは目のかゆみが生じないと考えられていますので、デュピルマブによって眼症状が発現している患者については、デュピルマブからトラロキヌマブに薬剤を変更しています。トラロキヌマブは、外用薬による寛解導入療法を行ってもEASIスコア30程度の患者に使用しています。

 生物学的製剤による治療は高額のため、治療を途中で中止して外用療法のみで可能な限り治療を続けたいと希望される患者もいます。医療者は患者の意向を尊重し応援することが大切です。

薬薬連携や専門性を活かした相互サポートの体制を

 現在、当院の薬剤部では薬薬連携の強化を推進するための取り組みを試みています。外用薬については院外薬局での処方としていますので、外用薬の使用について相談を希望する患者、あるいは医師からフォローをお願いしたい患者に対しては、近隣の保険薬局の薬剤師が外用薬の塗り方指導、かゆみのNRSスコアや残薬の確認、患者の困り事のヒアリングなどを定期的に実施して見守る体制にしています。トレーシングレポートの作成は非常に手間がかかると認識していますので、薬局の負担を減らすためにも、最低限必要と考えられることのみを薬局に依頼する方針として、オンライン上でも情報共有できるようにしています。

 外用薬は、薬局薬剤師の服薬指導のモチベーションによって治療効果が変化する可能性もあるのではないかと考えています。医師から患者には「(外用薬を)塗ってくださいね」「(内服薬を)飲んでくださいね」とは伝えるものの、実際にどの程度塗っているのか、残薬はどの程度かなどについては、医師の前では患者はなかなか話さないこともあります。そのため、実際には使用期限の過ぎた外用薬をためこんでいる患者や、使用期限の過ぎた外用薬を使っているがゆえに治療効果が現れない患者が多く、事後に残薬について薬局薬剤師に対して患者が話すケースもあります。

 また、昨年施行された選定療養制度により、外用薬においては、配合してはいけない、あるいは配合により使用期限が短くなる組み合わせの薬剤が処方されるケースが懸念されます。こうした点に配慮がない処方に対しては、薬剤師としての専門性を活かしていただき、積極的に医師にも問い合わせていただけたらと思います。

 JAK阻害薬が処方されている場合、副作用について薬剤師から重ねてご説明いただくことはもちろん、シクロスポリンなど免疫抑制作用のあるその他の薬剤を服用していないかなど、併用薬を確認していただくことが非常に重要です。患者は医師に対しては併用薬についてもなかなかお話しされないことが多く、併用薬に関するヒアリングも医師より薬剤師の方がはるかに長けていることも多いと感じています。

 アトピー性皮膚炎の治療において、医師、薬剤師ともに国家資格を保有する「プロフェッショナル」としてよりよい治療のために相互に連携できましたらなによりです。


伊藤 友章 氏

1998年東京医科大学卒業し、その後2002年より順天堂大学医学部アトピー疾患研究センターへ留学し、2008年よりNational Institute of Healthへ留学する。2011年 東京医科大学病院講師。2020年 同准教授。2024年 同教授。資格:皮膚科専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医・指導医。