食物アレルギー
チーム医療で多角的に食物アレルギー患者をサポート

食物アレルギーは、乳幼児期に発症、成長とともに耐性が獲得され、多くの場合寛解するが、その間の日常生活は制限される。また、重症例では、生涯を通じて原因食物の誤食によるアナフィラキシーが出現する可能性がある。食物アレルギーの診断や治療、管理では、正確な対処が求められる。今回は、独立行政法人国立病院機構 相模原病院 臨床研究センターの副臨床研究センター長・アレルギー性疾患研究部長である海老澤元宏氏と、同センター薬剤師の杉崎千鶴子氏、湘北短期大学 生活プロデュース学科の准教授で管理栄養士の林典子氏に、食物アレルギー診療のポイントについて伺った。

Part.1
独立行政法人国立病院機構 相模原病院
臨床研究センター
副臨床研究センター長・アレルギー性疾患研究部長
海老澤 元宏氏

Part.2
湘北短期大学 生活プロデュース学科 准教授
林 典子氏

Part.3
独立行政法人国立病院機構 相模原病院
臨床研究センター
杉崎 千鶴子氏

Part.1 専門医の処方を読む
専門医療機関での正確な診断と、適切な治療・管理を

独立行政法人国立病院機構 相模原病院 臨床研究センター 副臨床研究センター長・アレルギー性疾患研究部長 海老澤 元宏氏

典型例は摂取から2時間以内の症状出現
原因抗原は鶏卵、牛乳、小麦が多い

食物アレルギーは、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」と定義される。本来は人体に害を与えるものではない食物を免疫システムが異物として認識し、過剰なアレルギー反応が引き起こされてしまうのだ。日本における有症率は乳児で約10%、保育所児が5.1%、学童以降が1.3 〜4.5%とされている。全年齢を通して、わが国では推定1 〜2%程度の有症率であると考えられる。
食物アレルギーは、臨床型によって表1のように分類される。この臨床型のうち、最も典型的なのは蕁麻疹やアナフィラキシーといった即時型症状で、原因食物摂取から2時間以内にアレルギー反応による症状を示すことが多い。アレルギー専門医の協力により実施された本邦の調査によれば、原因抗原は鶏卵39.0%、牛乳21.8%、小麦11.7%で、これら上位3種が即時型症状の原因全体の72.5%を占めている。その他の食物としては、ピーナッツ、果物、魚卵、甲殻類、ナッツ類、そば、魚類などが報告されている。
一般的に、乳児から幼児早期の主要原因食物である鶏卵、牛乳、小麦、大豆の自然耐性化率は高く、その他の原因食物の自然耐性化率は低いと考えられている。しかし、食物アレルギーの自然歴に関する報告は少なく、特に主要原因食物以外の耐性化率は臨床経験的なものであり、実際のところは不明といわざるを得ない。自然耐性獲得の機序としては、成長による消化管の消化機能、物理化学的防御機構、経口免疫寛容の発達などが考えられている。

AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017より引用

複数臓器において症状が出現
症状に対する適切な薬剤の投与を

食物アレルギーでは、皮膚、粘膜、呼吸器、消化器、神経、循環器など全身の多岐にわたる症状がみられる(表2)。このうち、皮膚症状の出現頻度が突出して高く、次いで呼吸器症状、粘膜症状と続く。
アナフィラキシーとは、「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応」をいう。「アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合」を、アナフィラキシーショックという。食物によるアナフィラキシーは、特異的IgE抗体が関与する即時型反応であるため、典型例では原因食物の摂取後数分以内に症状が出現するが、30分以上経ってから症状を呈する場合もある。また、症状の発現は二相性のこともあり、すべての症状が同時に出現するとは限らないため、注意深い観察が必要となる。
アナフィラキシー発生時の対応としては、グレード3(重症)の症状、または気管支拡張薬吸入で改善しない呼吸器症状がある場合にはアドレナリン筋注の使用が適応となるが、過去の重篤なアナフィラキシーの既往がある場合や、症状の進行が激烈な場合などでは、グレード2(中等症)でもアドレナリン筋注の使用を考慮する。また、原則的にはグレード2(中等症)以上の症状には、皮膚症状に対する抗ヒスタミン薬や呼吸器症状に対する気管支拡張薬の使用など、それぞれの症状に対する治療介入を考慮する。食物によるアナフィラキシーの臨床的重症度および対処法は、表3、表4を参照いただきたい。

海老澤 元宏氏
AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017より引用
AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017より引用
柳田紀之 他. 日本小児アレルギー学会誌 2014;28:201より引用

食物アレルギーの診断
食物除去試験や食物経口負荷試験も

●原因食物の探索(問診)/ 特異的IgE抗体の確認(免疫学的検査)
食物アレルギーは、特定の食物摂取によりアレルギー症状が誘発され、それが特異的IgE抗体など免疫学的機序を介する可能性を確認することによって診断される。そのため、まずは問診で症状誘発への関与が疑われる食物の摂取状況と症状誘発の関連を確認し、その食物に対する特異的IgE抗体の有無を、抗原特異的IgE抗体検査や皮膚プリックテストなどの免疫学的検査で確認する。学童期〜成人の患者では、花粉と果物などの交差抗原性についても念頭に置き、原因抗原の探索を行うことが重要となる。

●原因抗原の確定(食物除去試験・食物経口負荷試験)
乳児アトピー性皮膚炎で、湿疹への関与が疑われる特異的IgE抗体が確認された場合は、原因食物を1 〜2週間程度完全に除去する食物除去試験を行い、湿疹の改善が得られるか否かを確認する。食物除去により改善が得られた場合は、その食物が本当に症状を誘発するか否かを確認するために食物経口負荷試験(oral food challenge:OFC)を行い、原因抗原の確定を行う。母乳栄養の乳児アトピー性皮膚炎の場合には、母親の食物除去および母乳を介した負荷試験を実施することもある。
また、即時型の症例では、症状の病歴と免疫学的検査の結果が一致すれば、その時点で食物アレルギーと診断できるためOFCは不要であるが、誘発症状がその抗原のアレルギー反応であるかが疑わしい、複数の原因食物が疑われるなどの場合は、OFCを行い原因抗原の確定を行う必要がある。

食物経口負荷試験:アレルギーが確定しているか疑われる食品を単回または複数回に分割して摂取させ、症状の有無を確認する試験

食物アレルギーの治療と管理
必要最小限の食物除去により耐性獲得を目指す

食物アレルギーの治療・管理の原則は、「正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去」である。耐性獲得を目指す小児の場合などでは、必要最小限の食物除去を行うために、OFCで段階的に食物負荷を行い、安全摂取可能量を決定する(図1)。さらに治療開始から一定期間経過後に、再度OFCを行い耐性獲得の有無を確認する。ただし、OFCはアナフィラキシーを誘導する可能性もある試験である。そのため、リスク管理体制が整った専門施設で実施することが必須とされている。
また、アレルギー専門の医療機関などでは、経口免疫療法(Oral Immunotherapy:OIT)が研究的な治療として行われることがある。OITは、自然経過では早期に耐性獲得が期待できない症例に対して、事前のOFCで症状誘発閾値を確認した後に原因食物を医師の指導のもとで経口摂取させ、閾値上昇または脱感作状態とした上で、究極的には耐性獲得を目指す治療法である。ただし、OITはすべての症例に治療効果があるわけではなく、経過中の症状誘発は必発である。重篤なアナフィラキシーを誘導する可能性があり、OIT終了後にも症状が誘発される場合がある。また、医療保険の適用もないことから、一般診療としての実施は推奨されていない。OIT実施の条件として、①食物アレルギー診療を熟知した専門医(日常的にOFCを実施し、症状誘発時の対応が十分に行える医師)であること、②OITの定義、対象者の選択、作用機序、有効性、副反応とその対応について知識・経験があること、③倫理委員会の承認を得て患者および保護者に十分なインフォームド・コンセントを行っていること、④症状出現時の救急対応に万全を期していることの4点を満たした施設でのみ行うべき治療法であるとされている。

厚生労働科学研究班による食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2017より引用

医師、栄養士、薬剤師など
チームで患者と保護者をサポート

必要最小限の原因食物除去を適切に行う上では、日常生活に即した具体的な食物摂取に関する指導が非常に重要となるため、管理栄養士との連携が重要となる。また、世間には「子どもの食物アレルギー発症を予防するためには、離乳食の開始を遅らせるほうが良い」、「一定の月齢に達するまで鶏卵は与えないほうが良い」などといった誤った情報が多く流布されている。食物アレルギー発症予防のために、離乳食の開始時期や特定の食物の摂取開始時期を遅らせるということはこれまで推奨されたことがないだけでなく、ピーナッツや鶏卵などの食物について、導入を遅らせることがアレルギー発症または進展のリスク因子となる可能性も報告されている。独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究センター副臨床研究センター長・アレルギー性疾患研究部長の海老澤元宏氏は「食物アレルギーのお子さんの保護者の方の中には、そうした誤った情報を信じてしまっている方もいますので、正しい情報を伝え誤解や思い込みを是正していくためにも管理栄養士の協力は必要不可欠です」と話す。
さらに、抗ヒスタミン薬や気管支拡張薬など、症状が出現したときに服用する薬剤や、アナフィラキシーを起こす可能性がある患者にはアドレナリン自己注射薬(エピペン®)が処方されるため、適切な使用方法や使用のタイミングなどについて、薬剤師から説明を行い、患者または保護者の理解を十分に深めておくことも非常に重要となる。特に、気管支喘息はアナフィラキシーの重篤化の危険因子であるため、気管支喘息既往例では、十分に注意する必要がある。「食物アレルギーは、食事というわれわれの日常に欠かせないものに直結して影響を与える疾患であり、アナフィラキシーなどの重篤な状態に陥る危険性がある疾患です。医師だけでなく、薬剤師、栄養士とチームを組んで、患者さんと保護者を全面的にサポートしていくことが、食物アレルギー診療には必要です」と海老澤氏。

食物アレルギーに関する誤解
専門医療機関での正確な診断が必須

食物アレルギーと混同されがちな疾患は多い。食物に含まれる細菌・ウイルス・寄生虫などによる食中毒や、乳糖の消化酵素の欠乏あるいは活性の低下が原因で下痢などの症状が出る乳糖不耐症、鮮度の落ちた魚で増加するヒスタミンに反応してアレルギー様の症状が起こるヒスタミン中毒などである。これらは、抗原特異的な免疫学的機序による反応ではないため、食物アレルギーには含まれない。実際にはヒスタミン中毒で皮膚症状が出現したが、さばアレルギーだと思い込んでいる人、生魚を食べてアニサキス食中毒を起こした経験から魚類アレルギーだと思い込んでいる人など、正確な診断を受けずに食物アレルギーだと思い込んで、特定の食物を除去している人が非常に多いといわれている。
このように自己判断で特定の食物を除去しているケースのうち、OFCを含む正しい診断基準で食物アレルギーと診断されるのはごく一部だという。海老澤氏は「食物を摂取した後に何らかの反応があったからといって、食物アレルギーと思い込み食物を除去してしまうのではなく、専門施設で正確な診断を受けることが非常に重要です」と話す。インターネットなどで知り得た誤った情報を信じ込むのではなく、信頼性が高く正確な情報を得ていくようにしてほしいとのことだ。

Part.2 エキスパートの服薬指導
正確な情報提供で食物アレルギー患者の生活を支援

湘北短期大学 生活プロデュース学科 准教授 林 典子氏
独立行政法人国立病院機構 相模原病院 臨床研究センター 杉崎 千鶴子氏

必要最小限の食物除去で
「健康的な」「安心できる」「楽しい」食生活を

前述のとおり、食物アレルギーの治療・管理の原則は、正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去である。湘北短期大学生活プロデュース学科准教授で管理栄養士の林典子氏に、「必要最小限の除去」について伺った。
「食べると症状が誘発される原因食物だけを除去することが重要です。食物アレルギーの頻度の多い食物を、『念のため』『心配だから』という理由だけで避けるべきではありません」と話す林氏。保護者の心配や不安や食物アレルゲンに関する誤った知識から、不要な除去を行うケースがみられるが、これは避けるべきだと注意を促す。抗原特異的IgE抗体検査や皮膚プリックテストの結果のみから疑われる原因食物を除去している場合には、必要に応じて専門施設でOFCを受け、症状が誘発されるか確認することが望ましい。
また、林氏は「原因食物であっても、症状が誘発されない“食べられる範囲”までは食べることができます」とも解説する。「食べられる範囲は、患者さんごとに異なります。そのため、OFCなどで症状が誘発されない量を確認します」。ここで判明した食べられる範囲の中で、自宅で原因食物を食べるよう医師が指示する。食べられる範囲でも、患者の体調不良時や運動などに伴いアレルギー症状が誘発される可能性があるので医師の指示に従って慎重に試していくことになる。
さらに、誤食を防ぐ情報として、加工食品のアレルギー表示として表示義務がある特定原材料7品目(卵、乳、小麦、えび、かに、そば、落花生)と、表示が推奨されている20品目(あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン)の説明や、外食などでの食品の選び方、生活の中での原因抗原への接触や混入に対する注意点などを指導する。
海老澤氏は「小麦の安全摂取可能量が分かっても、市販の食品にどれくらいの量の小麦が含まれているかなど、われわれ医師では十分なアドバイスができませんので、専門知識をもった管理栄養士に担当してもらっています」と話す。ただ、もちろんどの施設にも食物アレルギーの専門知識をもった管理栄養士がいるとは限らない。そのような状況でも適切な栄養食事指導が行えるように、食物アレルギー研究会では海老澤氏を中心に「食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2017」を作成し、また、実際の栄養食事指導についてのQ&Aの情報を食物アレルギー研究会のHPに公開している。

症状出現時に備えた薬剤処方
医薬品の成分にも要注意

適切に必要最小限の食物除去を行っていても、体調不良時や誤食などにより症状が出現することがある。前述のとおり、食物アレルギーによる症状は、複数臓器に及ぶ可能性があり、重篤な場合はアナフィラキシーショックが出現することもある。食物アレルギーの即時型誘発症状に対しては、症状ごとに重症度を適切に判断し、速やかに治療を開始するとともに、経時的な変化を常に再評価する必要がある。また、アナフィラキシー発生時は、アドレナリンの使用が第一選択であり、早期の治療は重症化を防ぐ。
こうしたことから、症状出現時に備え、抗ヒスタミン薬や気管支拡張薬、アドレナリン自己注射薬などが処方される。薬剤選択は、表4に示すとおり、症状ごとの重症度に基づいて行われる。薬剤師は、症状出現時にそれぞれの薬剤をどのタイミングで使用したら良いのか使用方法を含めて指導を行う。「例えば吸入薬は正しく吸入できているかどうかで薬剤の効果の現れ方が違ってきます。小さいお子さんでは直接吸入薬を吸うことができませんので、スペーサーを使って正しく吸入させる方法を保護者に指導するなど、年齢に応じた使い方を指導することが重要です」と独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究センター薬剤師の杉崎千鶴子氏は話す。
さらに盲点なのは、医療用医薬品や一般用医薬品にも、食物アレルギーに影響を及ぼす成分が含まれているものがあることだ(表5)。薬剤師としては処方の際、患者の食物アレルギーの既往に注意する必要があると杉崎氏は指摘する。
「鶏卵由来の成分である塩化リゾチームは市販の感冒薬や副鼻腔炎の治療薬などに用いられていますし、牛乳由来のタンニン酸アルブミンや乳酸菌製剤、カゼイン、乳糖なども多くの医薬品や生活用品に含まれています。鶏卵アレルギーや牛乳アレルギーの患者さんでは、アレルギー症状を誘発する可能性がありますので注意が必要です」と注意喚起する。海老澤氏は「経気道や経静脈で体内に入るとアレルギー症状が誘発されやすくなりますので、特に乳糖が含まれる吸入薬や静注用製剤の使用時には、牛乳アレルギーの方では注意が必要です。食物アレルギーと医薬品の使用が関連することを知っている医師は多くはないと思われますので、薬剤師のチェック機能が働くことを期待しています」と語る。また、海外製品など一部の口腔ケア製品や化粧品、入浴剤、石鹸などの生活用品にも、食物由来の成分が含まれている点もおさえておきたい。

AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017より引用

出演者よりコメント

食物アレルギーの患者さんは個々で重症度が異なり、ごく微量でアナフィラキシーを起こす患者さんもいれば、一定量食べることができる患者さんもいます。また、成長に伴って重症度も変化します。現時点の重症度に合わせて対応する必要があります。(林 典子)

食品のアレルギー表示については、消費者庁のホームページ「アレルギー表示に関する情報」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/)に詳しく説明されています。(杉崎 千鶴子)