高齢者は新型ウイルスに対抗できない?
中国疾病予防管理センター(CCDC)が2020年2月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患者4万4,672人の分析結果を発表しました1)。それによると、1,023人の死亡(致死率2.3%)のうち、81%は60歳以上でした。
高齢者は感染症の発症リスクが高いといわれていますが、その要因は次の4つの側面から考える必要がある、と名古屋大学・生体管理医学講座(臨床感染統御学分野)教授の八木哲也氏は指摘しています2)。
●加齢による生理学的変化
●加齢による免疫学的変化
●合併する慢性疾患の影響
●慢性疾患の治療による影響
加齢による生理学的変化としては、呼吸器系だけに絞ってみても、異物を排除する気道粘膜の分泌能や線毛運動能の低下、嚥下反射・咳反射の低下などが挙げられます。また、加齢に伴い、心臓病や動脈硬化、脳血管障害、糖尿病などの慢性疾患の合併が増加します。このような生理学的変化や慢性疾患を持つことが、感染リスクを高めます。さらに慢性疾患の治療が感染リスクに影響する場合もあり、たとえばステロイドや免疫抑制剤の使用では免疫能が低下し、感染リスクが上昇します。
それでは、加齢による免疫学的変化については、どのような知見が得られているのでしょうか。
まず、病原体や毒素などの異物と接することによって得られる「獲得免疫」に変化が生じます。獲得免疫は、病原性の細菌やウイルスなどの抗原に対して抗体をつくり駆除するB細胞が中心となって働く「液性免疫」と、ヘルパーT細胞の指令によってキラーT細胞やマクロファージが直接、病原体に感染した細胞を攻撃・排除する「細胞性免疫」に分かれますが、その両方に影響が及びます。
高齢者の液性免疫では、末梢のリンパ組織中のB細胞の全体数自体には変化はありませんが、新たな抗原に反応するB細胞数が減少し、これまでに抗原刺激を受けたメモリーB細胞数が多くなります3,4)。その結果、新規抗原に対して防御能力が劣る抗体がつくられることになります。つまり、新型コロナウイルスのような新規抗原に対して、ほとんど役立たずの抗体が多くつくられるわけです。インフルエンザでは、高齢者にワクチンを接種しても若年成人者より効果が得られる確率が低いことが知られています。細胞性免疫においても、高齢者ではT細胞の機能が変化し、新規の病原体に対する防御が弱まります3,5)。
また、生まれながらに備わっている「自然免疫」についても、高齢者では機能が減弱することが示唆されています3)。
加齢により免疫機能が変化することは「免疫老化(immunosenes-cence)」と呼ばれています。医療従事者は、この免疫老化を念頭に置き、慢性疾患などの感染リスクも考慮に入れて、新規の細菌やウイルスから高齢者を守る必要があると考えられます。
1)The Novel Coronavirus Pneumonia Emergency Response Epidemiology Team: China CDC Weekly 2020; 2: 113-122
2)『高齢者の感染症とその対策』長寿科学振興財団, 2018(八木哲也 : 高齢者と感染症のリスク.p15-23)
3)Boraschi D, et al.: Sci Transl Med. 2013; 5: 185ps8. doi: 10.1126/scitranslmed.3005624.
4)Kogut I, et al.: Semin Immunol 2012; 24: 342-349
5)Nikolich-Zugich J, Rudd BD: Curr Opin Immunol 2010; 22: 535-540