地域連携薬局の認定取得に向けて
【監修】
株式会社メディカルグリーン
大沢調剤薬局片柳店
上野 将明 氏
東北薬科大学(現:東北医科薬科大学)を卒業し、薬剤師免許を取得。その後、東北薬科大学大学院博士課程後期課程修了後、株式会社メディカルグリーンに入社。調剤薬局に勤務し保険調剤薬局の薬剤師として業務に取り組む。また、在宅業務をはじめ、無菌調剤など薬剤師が行うことのできる業務には積極的に取り組み、患者様や多職種と顔の見える関係性を築くことができるように努力している。
認定取得の前提として大切なのは薬局のチームワークづくり
当薬局は株式会社メディカルグリーングループのひとつで、常勤薬剤師5名、事務員3名の体制で運営しています。地域連携薬局の要件の中には「継続して1年以上勤務している常勤薬剤師の一定数以上の配置」がありますが、薬剤師が店舗に定着するためには全体のチームワークが必須です。私は、薬剤師や事務員の各々の間で連携がうまくとれていれば、忙しさも乗り切れますし楽しく仕事ができると思っています。反対に、チーム内がギクシャクした関係であれば些細なミスが多発しやすく、業務の楽しさも半減すると思います。このように考え、管理薬剤師として薬局全体で助け合いができる環境づくりを心がけています。
構造設備 バリアフリー、プライバシー、相談スペース
当薬局では、幸いにも開設当初から、高齢者や障害者に配慮した施設として、車椅子や杖をお使いの患者さんが来局しやすいようバリアフリーの環境を備えていました。また、数年前に投薬台にパーテーションを設け、プライバシーに配慮した構造を整えました。さらに、新型コロナウイルス感染防止の対策として患者さんが座る椅子を減らしたことでできたスペースに、血圧計と健康相談用の椅子とテーブルを設置しています。今後も相談しやすい構造設備をさらに検討していきたいと思います。
時間外対応 休日・夜間に対応できる体制の整備
私は以前、他の医療関係者の方から「他の医療関係者は24時間で対応する体制をとっているのに、どうして薬剤師はそうしないのか」とお叱りを受けたことがありました。当薬局の薬剤師をかかりつけ薬剤師に指名いただいている患者さんが60~70名程度いることもあって、時間外に店舗へ電話があった際には、当番の薬剤師に転送するよう設定し、24時間電話を受けられる体制を整えています。
薬剤師の業務は基本的には薬剤が手元にあるか、なくてもすぐに手に入ることが前提だと思います。そのため現在、卸業者さんや製薬企業さんにお声がけし、休日や夜間でも薬剤を持ってきていただけるような連携体制についてご相談しています。現場では、ターミナルケアで苦しんでいる患者さんが深夜でも医療用麻薬を使用できる、向精神薬の注射薬を保険調剤でも扱えるようになる、といったことが望まれています。これらを実現するためには、当グループの他店舗や近隣薬局との連携、はては薬剤取り扱いルールの見直しも必要だと思います。
無菌製剤処理を実施できる体制の整備近隣で情報を共有し合う
薬局は無菌調剤室を栃木県で2番目に早く設置していたのですが、全国的には無菌調剤室を備えていない薬局は多く、他の薬局の無菌調剤室の利用でも良いとはいえ活用のハードルは高いと思います。
当薬局では、無菌調剤室設置から1年9カ月間、使用の依頼が全くありませんでした。そこで、無菌調剤室を備えている旨を弊社のホームページに掲載したり、多職種との勉強会でアピールするなどしたところ、ターミナルケアの患者さんを担当されている施設などから3週間から3カ月程度の使用依頼がきました。次第に当薬局が「無菌調剤室を保持している」と口コミで認知度が上がり、使用依頼が増えました。このように、この要件をクリアするためにまずは、無菌調剤室を備えているという情報を、近隣やさらに遠方の薬局で共有できるような仕組みが必要なのではないかと思います。
情報共有の体制その1 会議への参加
私はこれまで、薬剤師限定の研修や勉強会のほかに、薬剤師会が開催する地域の多職種連携会議に出席してきました。特に、サービス担当者会議や退院時カンファレンスは、在宅の患者さんをケアする際の連携に必要なことだと考えていますので、積極的に参加するようにしています。
これらは必ずしも認定取得に向けた取り組みというだけでなく、こうしたコミュニケーションの地道な積み重ねによって地域の他職種との信頼関係を築くことができるのではないかと考えています。
現在の薬局の窓口業務では、かかりつけ薬剤師の場合は特に、患者さんに対する細やかな対応や配慮が求められています。その一方で、チーム医療がより重要視されるようになり在宅訪問や会議参加も求められています。薬局内に留まって業務する割合は今後、徐々に減っていくのではないでしょうか。これまで薬剤師は、情報共有という点で他の医療関係者に比べ後手にまわっていることが多かったと思いますが、これからは積極的に薬局の外の方々と関わることで能動的に情報を共有し、コミュニケーションをとる必要があると考えています。
情報共有の体制その2 医療機関への報告
今回の地域連携薬局の要件の中で1番高いハードルは、地域の医療機関に勤務する薬剤師やその他の医療関係者に対し、薬局利用者の薬剤等使用情報についての報告・連絡を実現することではないかと感じています。これについては、当薬局でもまだ手探りの状況です。
「月平均30回以上の報告実績」について、在宅だけでなく薬局窓口でも患者さんのフォローアップが義務化されていますので、窓口の患者さんも報告対象ですが、それでも月30回はどの薬局にとっても少なくはないと思います。また、回数を満たしていたとしても、医療機関やケアマネージャーといった報告の受け手側の視点からみてどの程度のボリュームや内容であれば十分なのか、まだしっかりと定義できていない面があります。この懸念点を払拭すべく、卸業者さんにも相談するなどして、少なくとも不十分と指摘されないような報告内容を現在吟味しています。
在宅訪問業務では、一般的な報告内容として表1の事項を記載し文書で提出するほか、「どこでも連絡帳」というICTを用いたネットワークを活用することもあります(表1)。
また当薬局が担当している近隣の介護施設では、当薬局独自のフォーマットを用いて報告書を作成していましたが、この介護施設担当のクリニックから報告書のフォーマットが送付されました(表2)。現在では、薬局側からクリニック側に報告・申し送りをする際、表2A、Bを用いて情報共有しています。
月30件の報告のために重要な患者情報の収集
私は、何らかの飲み忘れや飲み残しがある患者さんが大半で、毎回正確に服用できている患者さんは、全体の2~3 割程度ではないかと感じています。当薬局のスタッフには、飲み忘れや飲み残しを見つけるよりも、患者さんが飲み忘れや飲み残しを気兼ねなく薬剤師側に伝えられるようにすることが重要、と指導しています。
経験上、薬剤師は患者さんから「薬の先生」とみられることが多いのですが、患者さんは薬剤師よりご年配の方が多いこともあり、患者さんとの信頼関係を築いていないと、患者さんは飲み残した処方薬を隠す、服用していると嘘をつく場合が多々あります。「飲んでいるよ」と言いながらも1 0 0 錠単位で隠していた患者さんも過去に経験しました。そうしたケースに直面した際は、飲んでいないことを問い詰めるのではなく、飲まなかった背景に何があったのかを知ることが大切だと思います。
服薬コンプライアンスの向上には、在宅訪問だけでなく、窓口業務でも投薬時の短時間の会話の中で患者さんの生活スタイルを理解することが必要だと考えています。最
近であれば、新型コロナウイルス感染症のワクチンの話題などが糸口になるのではないでしょうか。薬の「先生」となると、萎縮や遠慮してしまう患者さんもいます。先生としての顔を見せるのは処方薬の説明時のみにして、薬剤以外の点で患者さんの情報を引き出せるようコミュニケーション力を磨くことが、患者さんの情報収集や、ひいてはかかりつけ薬剤師としての責務を果たすことにつながると考えています。
会社の独自システム「地域連携室」の設立と運営
弊社では、在宅や施設の訪問業務をどの店舗でも実施できる体制づくりを目的として、4年前に「地域連携室」という部署を立ち上げました。この地域連携室は、在宅訪問や無菌調剤室の連携に関する新規開拓の窓口として、各店舗の近隣施設や地域包括支援センターに定期的に足を運んだり、地域の多職種の勉強会に参加するなどして在宅事案の情報収集や当薬局からの提案を行っています。そのほかに、地域の勉強会やイベントの開催も企画しています。
認定制度の意味を考える地域に必要とされる薬局の在り方
近年、オンライン服薬指導や在宅訪問の推進が言われていますが、薬局の窓口業務はなくならないと思います。ただし、オンライン服薬指導や在宅訪問を希望される患者さんは確実に存在します。どの形態であっても、患者さんからみれば一人の薬剤師が対応することに変わりはなく、どの患者さんにも同じように丁寧に対応することが医療関係者として必須だと私は考えています。
最近、在宅訪問の現場で、処方薬の選定について医師から「この薬を投与することについてどう思いますか?」と尋ねられるようになりました。これは信頼関係の構築の賜物と感じ、ありがたい限りです。医師の考えと薬剤師の考えを融合して処方薬を選ぶことで、より適切な処方選択が実現できるのではないかと思います。いま、地域に必要とされる薬局の在り方を各々が考える時がきていると思います。