専門医療機関連携薬局の認定取得に向けて
【監修】
株式会社ナカジマ薬局
旭川医大店店長補佐
(外来がん治療認定薬剤師)
田中 寿和 氏
東邦大学薬学部卒業後ドラッグストア、がん診療連携拠点病院前に位置する門前薬局の勤務を経て、2018年4月ナカジマ薬局入社。翌年2019年4月より外来がん治療認定薬剤師(以下APACC)として活動開始。店舗におけるがん患者を含む患者サポートとともに、全社的ながん研修の開催やAPACC取得のサポートを認定薬剤師として行っている。今後は外来がん治療専門薬剤師としても会社や地域医療へ貢献していく。現在、機能の認定取得を目指している専門医療機関連携薬局は、要件が整い次第申請予定。
外来がん治療認定薬剤師を取得したきっかけ
私が現在勤めている薬局は、がん診療連携拠点病院である旭川医科大学病院(以下、旭川医大)のエリア内にあるいわゆる敷地内薬局です。
私のこれまでの薬局業務経験では、がん患者さんの服薬サポートや、がん患者さんご本人とご家族が抱える不安感への対応の際に、薬剤師の需要が非常に高いと感じていました。また、自分なりにがん患者さんのサポートに必要な勉強を追究していく中で得た知識や経験が、がん患者さんのサポートにダイレクトにつながることを実感しました。そして、より本格的に学習することでさらに良質なサポートが実現できるのではと考え「外来がん治療認定薬剤師」の認定を取得することを決めました。
夜間・休日に限らず専門薬剤師不在時の対応を検討する
旭川医大には、当薬局と他社の薬局さんの2店舗が敷地内薬局として設置されています。同院は24時間体制の特定機能病院であるため、薬局として救急のがん患者さんにも対応すべく、他社の薬局さんと隔週で休日・夜間にも対応しています(主に夜間は電話対応)。
また、平日の日中であっても、専門薬剤師が休みや不在の際に、がん患者さんのサポートをしっかりと実施できる体制が必要と考えています。そのために現在、認定薬剤師の育成にも力を入れております。また認定を目指している薬剤師と、かかりつけのがん患者さんについての情報共有や薬歴の記載を通じて、申し送りをしっかり行っています。また、必要に応じて不在時も専門薬剤師が後日電話で対応するなど最善を尽くしています。
プライバシーに配慮した薬局づくり
もともと、弊社の薬局には概ね全店舗、患者さんが周囲を気にせずお話しいただけるよう、ブースで座席式の薬剤受取口を設置していました。専門医療機関連携薬局の要件には「個室等の設備の設置」が含まれていますが、要件をクリアするという観点だけでなく、ご自身の命と向き合われているがん患者さんにはさまざまな配慮が必要であり、中でもプライバシーへの配慮は必須と考えています。私は本社に相談し、当薬局にはさらにプライバシーに配慮した完全個室ブースを設置してもらいました。この個室ブースは新規店舗など当グループの他店舗でも設置されています。
情報共有の体制と関係づくり
私は、コロナ以前から病院主催のセミナーや処方箋を応需する医師が演者を務める講演会などに積極的に参加してきました。専門医療機関連携薬局認定の要件として「専門的な医療の提供等を行う医療機関との会議への定期的な参加」がありますが、現時点ではこの会議の定義や内容について病院と協議しているところです。また、別要件の「専門性の認定を受けた薬剤師」になるには病院内での実地研修が必要となり、取得後も細やかな連携が重要となります。当薬局は旭川医大の敷地内という立地上、病院とは「顔が見える関係」であり、病院側に提案や相談がしやすい環境です。
無菌調剤室の必要性
専門医療機関連携薬局は、近隣薬局との連携として「他の薬局に対し薬剤等の使用情報について報告・連絡できる体制の整備」が求められます。現時点では当薬局は、経口抗がん薬や医療用麻薬、支持療法薬の調剤が中心です。がん化学療法薬の調剤にあたっては無菌調剤室も必要となりますが、現在は無菌調剤室は当薬局にはなく必要なケースもまだ経験していません。その機会が訪れた際には、同敷地内の他社の薬局さんで実施共有させていただくことになると思います。
専門薬剤師の役割グループ全体のベースアップをけん引
がん薬物療法における薬剤師の役割として、薬物相互作用への対応、アドヒアランスや有害事象のモニタリング・服薬指導、臨床検査値をもとにした治療薬の適正用量を監査、などがありますが、状況によっては有害事象対応として支持療法の変更提案や相談も重要です。例えば、がん薬物療法施行中には有害事象として手足症候群が発現する場合があり、通常は支持療法としてステロイド外用薬などが処方されます。この際、薬局側が的確に手足症候群の症状を電話などで確認、評価することで、必要に応じてがん患者さんに相談し、ステロイド薬のランクアップまたはダウンなどの処方変更の提案や休薬の指示を仰ぐことができます。
特に外来のがん患者さんの場合、短時間の診察時に副作用の詳細までを医師に伝えることは難しい場合があるので、自宅療養の際の有害事象の発現状況を薬剤師がしっかり確認し医師へ共有することで、より適切な治療が可能だと思います。がん薬物療法ではGradeによって有害事象が観察、評価されます。私は、CTCAEのver.5.0日本語訳JCOG版の内容を抜粋した一覧表を作成しました(図1)。また、旭川医大では、血液検査の結果が処方箋に開示されていますので、検査値の基準範囲についても作表しました。専門薬剤師以外の薬剤師の知識底上げのため、これらの資料を全社で共有しています。将来的には認定・専門薬剤師が中心となり、全ての薬剤師が支持療法の処方提案を実施できるような状態を目指したいと考えています。
がんだけではないそれぞれの専門薬剤師がいる風景
専門薬剤師の存在は薬学生にも影響を及ぼしているようで、リクルートの際にすでに専門薬剤師を目指したいという声もあります。ナカジマ薬局では、こうした向上心のある学生たちに実践で学べる店舗に来てもらい、最短でスペシャリストを目指すことのできる環境づくりを目指しています。今回の認定制度の傷病区分はがんですが、薬剤師に必要な専門性はがん領域だけではありません。糖尿病や腎臓病、HIVなどそれぞれについて知識を習得してもらい、専門性の高い薬剤師が地域医療を活性化してくれることを願っています。
取材協力
ナカジマ薬局 薬局事業部部長 谷口 亮央 氏、広報室室長 林 貴宏 氏