2023年9月号掲載記事「Webでも受けられる認定薬剤師の研修一覧」で取り上げた、がん研究会有明病院の研修「ABCセミナー」。同セミナー第7回「肝・胆・膵がんの薬物療法」(2023年10月1日開催)は、800名を超える方が参加しました。今回は、同院薬剤部長の山口正和氏にセミナー開催の背景や研修参加者へのメッセージなどを伺いました。
公益財団法人がん研究会有明病院 薬剤部長
山口 正和 氏
ABCセミナーとは
2023年度より、私たちは「ABCセミナー(Ariake Basic in Cancer seminar)」を毎月第2水曜(18:00~19:30)にWebで開催しています。2023年4月「大腸がん(」開催済)に始まり、2024年3月「頭頚部がん」(2024年3月13日開催予定)の全12回分の年間スケジュールを公開しています。これは、開催日が平日の18:00~ということもあり、急な告知となると参加する薬剤師の皆さんもスケジュールの調整が難しいかと考え、事前に公開したものです。
講義内容は、講師を担当する薬剤師が各々得意とする分野を取り上げ、構成しました。
国内有数の認定資格者を抱えるがん専門病院としての役割を考える
セミナーを企画した当初は、地域の薬局に向けた連携充実加算の要件の1つとして考えていました。しかしながら当院は、国内で唯一の民間のがん専門病院であり、国内随一のがんに関連する認定薬剤師数を誇ります。民間であることから、認定資格の取得や維持のネックとなる転勤がなく、それゆえに認定資格者を育てやすい環境ともいえるのです。
日本医療薬学会がん専門薬剤師認定制度規程の第1章総則には次のような文言があります。「(目的)一般社団法人日本医療薬学会のがん専門薬剤師認定制度は、…認定者による社会への還元を促進することにより、国民の保健・医療・福祉に寄与すること目的とする」。全国から患者さんが受診するがん専門病院の薬剤部の役割として、がん患者さんや地域の薬局だけでなく、広くがんに関わる多くの薬剤師、薬学生にがんに関する知識を還元したいと考えたことが、現在のABCセミナー開催の背景にあります。
薬剤師育成と個人PRも目的の1つ
さらに病院のブランディングへの貢献
セミナーは薬局・病院薬剤師や薬学生の方々への知識の提供だけでなく、話者として発表に慣れるといった当院の薬剤師育成にも繋がっています。また、セミナーには、製薬企業の担当者や大学の教員なども参加しています。このようなところから注目を受ければ、各地域の薬剤師会や勉強会、企業セミナーで講師として招かれることもあります。セミナーは薬剤師個人のアピールの場にもなると考えています。
さらに、これから人口減少社会が進み、患者数の減少が見込まれます。今後のことも視野に入れ、患者さんにしっかりと「がん研究会有明病院」を認知してもらわなくてはいけないと危機感を抱いています。こうしたセミナー開催の取り組みは当院薬剤部と病院をアピールし、当院のブランディングにも貢献することだと思っています。
今後の研修の展開 レベルアップや共同研究も
現在のABCセミナーは、受講者の間口を広く、がんに携わっていなくても勉強をしたいという方も含めて初級~中級レベルの方々を対象としています。今後は、より深い実務的な内容や研究志向のある方に向けてレベルアップ研修の開催も検討しています。将来的には、保険薬局や病院と連携した多施設共同研究の実施といった構想も描いています。
まずは「がん」への学習を踏み出そう
毎回セミナー終了後に収集しているアンケートでは、がん関連の学会等が開催している勉強会などは専門や認定取得を目指している薬剤師向けで敷居が高いといった意見を目にします。当セミナーは無料かつWeb開催のため、気軽に参加できます。抗がん剤などは現在扱っていなくても知識を深めたい、今後扱う可能性があるかもしれないという方であれば、まずは構えずに当セミナーに参加し、がんの学習に取り組んで欲しいです。また、いま病院薬剤師を目指す薬学生が少なくなっています。彼らに病院薬剤師の取り組みを知ってもらうことで興味を持って欲しいとも願っています。
山口 正和 氏 プロフィール
1985年国立療養所東栃木病院を皮切りに、2021年まで国立病院、療養所、ナショナルセンターにて勤務。その間、厚生省薬務局など行政に出向。2021年がん研有明病院院長補佐・薬剤部長として現在に至る。所属学会等:日本医療薬学会代議員、日本臨床腫瘍薬学会顧問。