医療・介護・生活支援や介護予防サービスの連携による地域包括ケアシステムの実現に向けて、2024年度の診療報酬改定が実施されます。2024年1月26日、中央社会保険医療協議会(中医協)から改定の個別改定項目案(いわゆる短冊資料)が公開されました。今回は、株式会社アクシス主催「2024調剤報酬改定を読み解くこれからどうなる?薬局経営~効率的な薬局経営に必要な考え方~」より、東京薬科大学薬学部生化学研究室客員准教授の巣山貴裕氏による、短冊資料をもとにした調剤報酬改定のポイントなどを紹介します。

東京薬科大学 薬学部 生化学研究室 客員准教授
株式会社E-BONDホールディングス 取締役社長室長

巣山 貴裕 氏


2025年、2040年問題を見据え
地域包括ケアシステムの深化に向けた動き

 団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年問題が目前に迫り、団塊ジュニア世代が65歳以上を迎えることで起こりうる2040年問題も現実味を帯びてきた。そのため、地域の実情に応じてマンパワーの確保、効率的・効果的な医療提供体制の構築を進めていく必要があり、これらの実現にむけて8次医療計画が2024年度からスタートする。さらに2025年を目途に構築が推進されてきた地域包括ケアシステムについても、より一層の深化・推進が求められている。

2024年度診療報酬改定基本方針
地域包括ケアシステム・在宅の充実を色濃く

 「2024年度診療報酬改定の基本方針」に関する基本認識では、物価高騰・賃金上昇関連の内容も盛り込まれた。この認識のうえ、「現下の雇用情勢を踏まえた人材確保・働き方改革等の推進」を重点課題とし、「ポスト2025を踏まえた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」「安心・安全で質の高い医療の推進」「効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上」を基本的視点に挙げている。

 「2024年度の診療報酬改定は地域包括ケア、在宅医療をさらに充実させていきたい国の考えが反映された内容となっている」と、短冊を概観した巣山氏は述べ、主な注目ポイントとして調剤基本料、地域支援体制加算、連携強化加算、在宅薬学総合体制加算・在宅移行初期管理料、医療DX推進体制整備加算などについて言及した。

 厳しい改定が続いてきた調剤報酬だが、近年の物価高への対応や最低賃金の上昇などを踏まえた形で、2024年度の改定はプラス方向に転じると巣山氏は考える。「特に薬剤師の賃上げについては調剤基本料が1~2点程度上がることで補完される可能性がある」という。

 処方箋受付回数が多い薬局の評価について、特に大手調剤薬局グループの薬剤師の間では「いわゆる同一敷地内薬局の評価の見直しで、該当店舗だけでなくグループ全体の調剤基本料が一律に下がるのではないか」との懸念がもたれていたが、本件は見送りとなった。ただし、巣山氏は「中医協で継続議論されることになり、2024年度中に何らかの措置が取られる可能性もある」と示唆した。

 巣山氏は処方箋受付回数4,000回/集中度70%超の区分にも注目する。今回の改定で当区分の集中度について「上位3番目までの合計」が追加された。これにより、医療モールのような同一区画内にある薬局は調剤基本料2の対象になる可能性がある。「医療モールは安定したビジネスと捉えられていたが、今回の改定で経営戦略の見直しが必要になるかもしれない」と巣山氏は薬局経営の転換の可能性にも触れた。

※2024年2月答申後の追加情報より、調剤基本料に関する(参考)を作成

地域支援体制加算

 地域支援体制加算について、巣山氏は「全体的に厳格化した印象」と語る。

 注目点として、まず、施設基準の地域医療に関連する取り組みの要件に一般用医薬品だけでなく要指導医薬品の販売が盛り込まれた点を挙げた。健康サポート薬局の届出要件である48薬効群の品目を取り扱い、来局者が必要な医薬品を選択できるようにする必要がある。この要件について、巣山氏は「店頭での取り扱いが必須か、カタログ等での取り扱いも容認されるのかは現段階ではわからない」と補足した。2点目に、緊急避妊薬を備蓄し、購入者の相談に適切に対応するための体制整備が施設基準に追加された点も挙げた。

 医薬品等の供給拠点としての体制の要件では、処方箋の集中率が85%超の薬局について、後発医薬品の使用割合の基準が従来の50%から70%に引き上げられた。この点も大きなインパクトだと巣山氏は感じている。

 今回の改定で、地域医療への貢献に係る実績に関する項目に「小児特定加算」が追加され、9項目から10項目に増えた。

 地域支援体制加算1は、表110項目のうち④を含む3項目を満たす必要がある。地域支援体制加算2では、満たすべき要件が従来の9項目中3項目から10項目中8項目に増えた。巣山氏は「30~50店舗程度を抱え、処方箋受付回数が月4万回未満といった規模のグループ薬局にとっては8項目を満たすのは難しいだろう」とする一方で、おもに大規模薬局グループが対象になる地域支援体制加算3・4は、実績に関する要件では大きな変更はなかったため、あまり影響はないと予測した。

 「地域支援体制加算は、特にフランチャイズやボランタリーチェーンで共同購入している小規模薬局などにとっては要件の達成が厳しくなり、体制づくりが必要になる。ただ、調剤基本料のアップに加え、新設された算定項目を上手に組み込むことで薬局経営はプラスに転じる可能性がある」と巣山氏は調剤報酬全体を見通して分析する。

連携強化加算

 2022年度調剤報酬改定で、非常時に対応できる体制を整えた薬局を評価する連携強化加算が新設された。2024年度の改定では、第二種協定指定医療機関の指定要件を踏まえて要件および評価を見直すとともに、地域支援体制加算の届出にかかる要件は求めず、独立して算定可能となった(5点)。

 第二種協定指定医療機関を踏まえた算定要件とは、1)新型インフルエンザ等感染症等の発生時において自宅療養者等に対する調剤、オンライン又は訪問による服薬指導、薬剤等の交付等に対応する体制、2)要指導医薬品・一般用医薬品、検査キット(体外診断用医薬品)の販売、3)オンライン服薬指導を行うための必要な通信環境、セキュリティ対応等、などが検討されている。

在宅薬学総合体制加算・在宅移行初期管理料

 地域支援体制加算の要件が厳しくなった一方で、巣山氏が2024年度の改定で注目しているのが、在宅関連で新設された2項目だ。

 「在宅薬学総合体制加算(1・2)」は、従来の「在宅患者調剤加算」が刷新された形で設けられたが、点数に関しては変更がないものの、求められる要件はより厳格になっている。特に在宅薬学総合体制加算115点)は、以前と同様の点数で算定されるが、その基準となる要件の厳格化が見られ、薬局にとっては在宅医療サービスの提供にあたっての負担が増す可能性があることを示している。在宅薬学総合体制加算250点)は、注射剤を含め麻薬の品目数、無菌室・クリーンベンチの常時設置、2名以上の保険薬剤師の配置、かかりつけ薬剤師の年間実績などの要件をクリアしなければいけないため、「ただ在宅対応している」だけでは算定は難しいと巣山氏は指摘する。在宅医療に積極的に取り組んでいる薬局、特に医療用麻薬の備蓄、無菌調剤体制、小児在宅医療などに熱心な薬局に対する評価向上が期待できる。

 もう1つが「在宅移行初期管理料」230点)だ(訪問初回、個人宅に限る)。在宅訪問が開始される前に、患者の退院時処方薬や残薬の確認、服薬管理方法の提案などを行うが、これまで同業務を評価する算定項目はなかったが、今回の改定で適正に評価されるようになったと巣山氏は解説した。

 その他、既存の在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料では、末期の悪性腫瘍や麻薬投与が必要な患者に対する緊急訪問の回数上限が月4回から8回に増えるほか、休日や夜間訪問加算なども細かく評価されることになった。

 こうした在宅関連業務への評価の強化について、「今後も在宅関連の評価は拡大される可能性がある。在宅に特化して展開してきた薬局にとっては追い風になるだろう。また、これまで在宅に二の足を踏んでいた薬局にとっては、ハードルは高いかもしれないが、新規参入や事業拡大の足がかりになるのでは」と巣山氏は展望する。

医療DX推進体制整備加算

 DX化の遅れが指摘されている医療業界だが、医療DXに関連する算定として「医療DX推進体制整備加算」が新設された。施設基準に適合し、届け出た場合は4点(月1回に限る)を調剤基本料に加算する。こうした加算を導入することで、DX化を後押しする意味合いもあると巣山氏は推測する。

 当加算は、オンライン資格確認や電子処方箋、電子薬歴、電子カルテ情報共有サービスの活用といった体制整備やマイナンバーカードによる健康保険証利用の実績などによって評価される。

対人業務へのシフトを促す改定内容
薬剤師以外の人材活用もポイントに

 巣山氏は、薬局で薬剤師でなければならない業務は対人(患者)業務以外では少なくなってきているとし、特に対物業務については、事務担当を活用することで薬剤師はより対人業務に集中できると考えている。「今回の調剤報酬改定にも、薬剤師を対人業務にシフトさせるための要素が要所に散りばめられている」といい、具体例を挙げた。

 服薬情報等提供料では、従来はトレーシングレポートを記載のうえ、薬歴の記載も義務づけられていたが、今回の改定で薬歴の記載に関する内容が削除された。こうした「二度手間」とも取れる内容が見直されていると指摘。「中医協での議論のなかでも、薬歴による残業は話題に挙がっていた。その他にも同様の例で薬歴に関する内容が削除されている箇所もある」と巣山氏。

 薬剤師以外の人材活用や業務の効率化を図れば、薬剤師は患者と接する機会が増え、症状・状態の変化等を把握して的確なアドバイスを提供できるようになる。さらに、期待される在宅業務への注力も図れるのではないかと、巣山氏は今後の薬剤師のあり方にも触れた。

連携によるサービス提供の実現
小規模薬局も地域包括ケアにより参画を

 巣山氏は「これまで小規模薬局は、地域支援体制加算や在宅患者訪問薬剤管理指導料をはじめとする在宅関連の加算、かかりつけ薬剤師指導料などの算定要件を満たすのは容易ではなかった」と話す。しかし、今回の改定で、かかりつけに関連する項目を例にとり、かかりつけ薬剤師指導料では「24時間」が「休日、夜間を含む時間帯」に変更された点、かかりつけ薬剤師以外の薬剤師が代わりに服薬指導する場合は、同薬局の別の薬剤師が対応、あるいは折り返しでの対応も可能になった点などを挙げ、要件の緩和を示唆した。こうした変更点は、調剤報酬の解釈次第で、近隣の保険薬局との連携を図ることで、小規模薬局も要件を満たすサービスの提供が可能になるのではないかと巣山氏は説く。

 「いま、薬局は薬をもらうだけの場所になっている。かつて薬局は患者が病院に行く前に健康の相談ができる場所だった。今回の改定で薬剤師の業務が対物から対人に移行し、“街の健康アドバイザー”という本来の姿に戻るきっかけになるかもしれない。小規模の薬局も他の薬局と連携して地域包括ケアシステムを担う一翼になることが期待されている」と今回の改定から読み解く薬局の展望をまとめた。

※各項目の点数等は、2024年2月14日答申段階の内容を反映しています。
※医療DX推進体制整備加算の点数に誤りがございました(8点→4点)。お詫びして訂正いたします。(2024/3/19 編集部)


巣山 貴裕 氏 プロフィール

近年急速な拡大をみせ、500店舗を超える規模の調剤薬局の運営と、そこで培った様々なノウハウをもとに周辺事業の展開を図るE-BONDホールディングスの取締役社長室長。
その傍らで東京薬科大学での客員准教授としても活動し、皮膚疾患、スキンケアの研究や、それらに精通した人材育成に従事するなど幅広い活動を行っている。