栄養状態が治療の成果に大きく影響を及ぼすことは広く認知されており、在宅栄養管理についての知識を持った薬剤師が多職種連携に関わることで、治療効果の向上が期待できる。2024年度の診療報酬改定でも、薬局の在宅医療へのより一層の注力に対する期待がみえるなか、今回は一般社団法人薬学ゼミナール生涯学習センター主催「在宅栄養管理で深めておきたい知識薬剤師が診ている視点とアセスメント」(2023年10月公開講座)を取り上げ、薬剤師でNST専門療法士の認定を持つ小林篤史氏による在宅栄養管理のポイントを紹介する。
株式会社佳林(カリン薬局)代表取締役
小林 篤史 氏
摂食・嚥下の5段階と薬剤の影響
咀嚼・嚥下、消化・吸収、代謝、感覚の各機能は加齢に伴って低下する。小林氏は「機能低下と薬剤の関連に着目することで、薬剤師ならではの栄養管理が可能」と指摘する。
摂食嚥下障害は、①脳疾患や神経変性疾患による機能的障害、②嚥下関連器官の腫瘍・炎症などによる器質的障害、③認知症やうつ・拒食などによる神経心理的障害、に分類される。特に「薬剤の影響によって機能的障害が生じることがある点は注意すべき」と小林氏。ただ、薬剤性の嚥下障害は、原因となる薬剤の中止などで改善する可能性はあるが、それが引き金になって脱水や低栄養などを誘発し、状態を悪化させるリスクもある。小林氏は、状態の悪化を防ぐために薬剤・栄養の両面から薬剤師が服薬の是非を検討、提案できれば理想と考える。
摂食・嚥下の5段階(先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期)の概要と、影響を及ぼす可能性のある薬剤を図で示す。
低栄養による生存率の低下 脱水症と重なる特徴も押さえる
高齢になると、消化管機能の低下により、栄養素の吸収能が弱まる。また、体内の水分量が減少し、脂溶性薬物の血中濃度が上がりやすくなる。代謝機能については、肝臓で肝血流量の減少、肝機能の低下がみられる。さらに、腎血流量の減少、腎機能の低下で腎排泄型の薬剤の血中濃度が上がりやすくなる。このように、高齢者は薬剤の副作用が現れやすい状態になるため、薬剤と食事との関係に着目し、吸収、分布、代謝、排泄を意識することが重要になる。
「平成25年国民生活基礎調査」によると、日本人の65歳以上の10人に1人が転倒・骨折で介護が必要になる。小林氏は「その背景にはサルコペニア、フレイルがあり、加えて低栄養が絡むと、ふらつき ➡ 転倒・骨折 ➡ 寝たきり という経過をたどることになる。そのような状態になる前に低栄養の改善に取り組む必要がある」と強調する。
入院患者の栄養状態と転帰に関する調査では、簡易栄養状態評価(MNA)の栄養状態良好群は、低栄養リスク群に比べて1年後の生存率が2倍程度高いという。また、低栄養患者の入院30日後の死亡率は、がん患者で2.5倍、慢性心不全で2倍高いという報告も小林氏は紹介。疾病の観点からも、低栄養は改善すべきリスクと考えられる。
低栄養の主な症状は、痩せてきている、足やお腹が浮腫む、握力が弱い、傷が治りにくい、などが挙げられる。その他にも、便秘が続く、口腔内・舌・唇が乾く、食欲がない、よろけやすい、だるそう・元気がない、皮膚が乾燥している、尿が少なく色が濃い、といった症状もみられるが、これらは脱水症の症状とも重なる。小林氏は、低栄養と脱水の関連性を指摘し、低栄養の状態をしっかりイメージし、判断できるようにと促す。
栄養アセスメントは見て、触れて客観的に評価
栄養管理は、栄養障害によってもたらされる機能的障害や合併症を予防し、治療成績の向上を図ることが目的であり、栄養スクリーニング・栄養アセスメント ➡ 栄養管理計画 ➡ 栄養管理の実践 ➡ モニタリング/治療効果の判定 ➡ 栄養管理計画の見直し ➡ 治療終了、の流れで行われる。
栄養アセスメントにおいて、小林氏が主観的包括的アセスメントとして重視するのは、体重変化(過去6カ月と直近2週間)、食事摂取量と食形態の変化、消化器症状(嘔気・嘔吐・下痢などの症状、程度、期間)、機能性(歩行状態、寝たきりなどのADL)、全身状態(浮腫、褥瘡、脱水の有無や程度)で、「スクリーニングに時間をかけず、簡便かつ誰でも理解できるような指標を使うことがポイント」とアドバイスする。さらに、「MNAの評価シートなどを使うのも有効だが、患者の表情や動き、手で触れてみたときの感触など、客観的に患者を見て評価することを重視」と付け加える。
栄養素投与量を決める7つのポイント
それでは、実際、栄養素の必要投与量はどのように決定するのか――。小林氏は慢性疾患で状態が比較的安定している患者に対する栄養素投与について、7項目の主なポイントを挙げている。
1)病態の評価と栄養アセスメントを行い、目標を定める
アセスメントとして栄養パラメーター(身体計測、血液・尿生化学、免疫能など)を評価する。おもなポイントを示す。
● 体重減少率:1カ月で5%以上、3カ月で7.5%以上、6カ月で10%以上は異常と判断。
● BMI:70歳以上は21.5~24.9を基準(ただ実際は、在宅高齢者の平均BMIは18.1程度といわれる)。
● タンパク濃度:総タンパクの正常値は6.5~8.0g/dL。アルブミンの正常値は4.2~5.2g/dL。アルブミンの半減期は17~23日で、計測時の数値は約3週間前の栄養状態を反映している点は留意。アルブミン値低下で血管内の血液の浸透圧が低下し、血管外組織に水がたまり、浮腫が起こる。免疫低下を始めとする全身の不調の原因となる。
● c反応性タンパク(CRP):CRP産生により、アルブミン合成能は低下する点は留意。
● コリンエステラーゼ:肝臓でのタンパク合成能を反映。コリンエステラーゼが不足するとタンパク合成に支障をきたす。脂肪肝、高脂血症、ネフローゼ症候群などで高値。低栄養、急性・慢性肝炎、肝硬変などで低値を示す。
2)エネルギー投与量の確認
小林氏は、必要なエネルギー投与量を次の計算式を用いて概算する。
エネルギー必要量=20~30kcal/kg×体重(kg)+α(AfやSfを考慮して乗じる)
活動係数(Active Factor;Af)は、寝たきり状態:1.0~1.1、ベッド上安静:1.2、ベッド外活動:1.3、リハビリ:1.4。ストレス係数(Stress Factor;Sf)は、術後:1.0、長管骨骨折:1.15~1.3、がん:1.1~1.3、多発外傷:1.2~1.4、熱傷:1.2~2.0を目安にする。
慢性的な栄養不良の患者に急速に栄養補給すると、急速な糖質投与と電解質欠乏によりリフィーディングシンドロームを発症し、命に関わることがあるため注意が必要だ。リフィーディングシンドロームを抑制するためには、Mg、K、P、血糖をチェックしながらビタミン、ミネラルの補給を行う。1日あたりのエネルギーは体重×10kcal/kg程度から開始して1週間かけて目標量まで徐々に増やす。小林氏は、「可能な限り腸を使うこともポイント」と補足する。
3)タンパク質投与量の確認
1日あたりの必要量は、成人:1.0g/kg、高齢者:1.0~1.2g/kg。ただし病態、ストレスの程度に応じて調整する。例えば、次の病態の患者の1日あたりのタンパク量は、保存期腎不全:0.6~0.8g/kg、人工透析:1.0~1.2g/kg、慢性肝炎:1.2g/kg、肝硬変:1.0~1.3g/kg、肝性脳症:0.5g/kg(BCAA製剤を併用)を目安とする。
4)脂質投与量の確認
総エネルギー投与量の30%を基準に、病態に応じて調整。静脈栄養の場合は脂肪乳剤を併用し、時間をかけて投与する(投与速度は1時間あたり0.1g/kg以下)。
5)炭水化物投与量の確認
総エネルギー投与量の50~60%に相当し、総エネルギー投与量からタンパク質と脂質投与量を差し引いたもの(炭水化物の投与量:総エネルギー投与量-タンパク質-脂質)。
6)非タンパクカロリー/窒素比(non-protein calorie/nitrogen ratio:NPC/N比)の確認
NPC/N比:非タンパクカロリー([投与糖質g×4]+[投与脂質g×9])kcal÷窒素比(投与タンパク質量g÷6.25)。健常な状態であれば、窒素1gあたり約150kcalが適正とされる。適正量よりも少ない場合はアミノ酸を多めに摂取、多い場合はタンパク質量を制限するなどを検討する。
7)水分投与量の確認
体重から算出でき、基本は30~40mL/kgを用いて病態に応じて増減する。ただし、水分必要量(維持量)は、76歳以上は約25mL/kgとされ、年齢を重ねると減少する。
水分投与はin-out量を考慮する。inは体内の水分(経口摂取量、静脈栄養量、経腸栄養量など)、outは排出される水分(尿量、呼気や皮膚表面からの排泄など)で、両者のバランスが崩れると浮腫、脱水を引き起こしやすくなる。
以上、7項目のほかに、ビタミン、微量元素、食物繊維について配慮できれば、より良好な栄養計画が立てられるという。栄養計画の検討にあたり、具体的な事例を以下に示す。
薬剤師の視点を生かして積極的に栄養管理へ参加を
在宅患者の栄養管理は、スクリーニング、アセスメントを踏まえて栄養計画を立て、モニタリングをして評価するという一連の流れで行う。そこに栄養状態と薬剤の関連を意識する薬剤師の視点が加わることによって、より効果的な治療が期待できる。小林氏は「咀嚼・嚥下、消化・吸収、代謝、感覚の機能低下と薬剤の関連に着目することで、薬剤師ならではの栄養管理が可能になる。患者の栄養状態を数字で評価できるように知識を深め、多職種で在宅栄養に関わることが重要だ」と締めくくった。
小林 篤史 氏 プロフィール
「全ての人が、安心して在宅医療を選択できる世の中に」との理念を掲げ、2022年に京都でカリン薬局を開局。「在宅×災害医療特化型」の調剤薬局を目指し、京都市および周辺地域の医療機関90施設と連携し、小児から高齢者を対象に在宅医療を展開している。
緩和薬物療法認定薬剤師、NST専門療法士、スポーツファーマシストなど種々の認定を取得。