2024年12月15日にオンラインで開催された服薬ケア医療学会第14回大会。今回も理事長の岡村祐聡氏が幅広い講演を設計し、学びの濃い発表が続いた。本会の目玉であるシンポジウムの中から、薬剤師の職務の本質に迫った、南天薬局の藤原將平氏の講演を取り上げる。


退院後も続いた処方が引き起こした事例

 入院時にせん妄で処方された抗精神病薬や睡眠薬が、在宅に戻ってもそのまま処方され続けるケースは少なくない。本講演では、藤原氏が経験した危険なケースと、入院時の処方薬の終え方や退院後に不要となった薬の情報伝達の方法について検討したい、として事例が紹介された。

事例紹介

【症例概要】
患者は80代の女性。自宅で転倒・骨折後に総合病院へ入院。退院後は高齢者施設に入居し、家族の希望でかかりつけ医(循環器科)を受診し、退院時に処方されたハロペリドールが継続処方された。肩の硬直や眼の動きの低下、無表情などの症状が現れたため、別の医療機関(脳神経内科)を受診。進行性核上性麻痺の疑いが指摘された。

【 処方内容と注目点】
 患者には合計18種類(循環器科で17種+脳神経内科で抗パーキンソン病薬トリヘキシフェニジル)の薬剤が処方されていた(表)。注目すべきは、ハロペリドールの継続が原因で薬剤性パーキンソニズムや眼球上転発作などの副作用が疑われた点、脳神経内科医による処方追加が行われたが症状の改善には至らなかった点、そして、家族の希望が強く影響し不要な薬剤の継続が長引いた点だという。

【薬剤師の介入】
 薬剤師のアプローチとしてまず、施設職員や家族から得た情報をもとに、退院後の症状が薬剤性の錐体外路症状(ハロペリドールの副作用)であると疑った。トレーシングレポートを通じて、患者の症状と薬剤が関連する可能性を示し、ハロペリドールの処方中止をかかりつけ医に提案。しかし、かかりつけ医の処方は入院した医療機関をもとにした処方として、提案は受け入れられなかった。

 そこで、患者の家族に対して、現在の症状とハロペリドールの副作用リスクやハロペリドールの中止の必要性を丁寧に説明。トレーシングレポートを患者に持たせたところ、かかりつけ医がハロペリドールの処方を中止。患者の肩の硬直や無表情などの症状が改善した。

解決したかに見えた後のトラブルと課題

 錐体外路症状は改善したが、その後、口腔内のトラブルとして、口をもぐもぐさせる動き、流涎、舌痛が発現。脳神経内科ではトリヘキシフェニジルを中止した。その後、右下顎部に激痛(腫脹を触知)と食欲低下が発現した。そこで薬局から耳鼻科にコンサルした結果、「唾石症」と診断された。

 口をもぐもぐさせる動き、流涎、舌痛は、遅発性ジスキネジアが連想される。本事例では、抗精神病薬のハロペリドールによる副作用という可能性が考えられた。遅発性ジスキネジアは、糖尿病や抗コリン薬の服用で発現リスクが上昇する。また、藤原氏は、遅発性ジスキネジアを発症していると死亡率が高くなるという報告もあるため注意が必要と加えた。唾石症は抗コリン薬服用歴による口渇が背景にあるとも考えられるという。さらに、認知症に対する抗精神病薬の使用は、死亡リスクが高くなるとされる一方で、その危険性について家族の同意を得ている医師は28%にとどまっているというデータもある。

 本事例から適切な薬剤レビューの重要性が伺える。高齢患者の服薬管理では、家族や医師との連携が欠かせない。薬剤師が主体的に働きかけ、患者の健康状態を改善する役割を果たすことの重要性が示唆されている。

医薬分業のあるべき姿

 本事例では、入院時から続いている処方について薬剤師としてどのように関与すべきかという課題が浮き彫りになった。藤原氏は医薬分業の原点に立ち返った。1974年は医薬分業元年と言われている。当時のスローガンは「薬害の根絶」と「過剰医療の抑止」だった。現在の「副作用チェック」と「ポリファーマシー回避」は言葉は違えど本質は同じだ。

 藤原氏は、現状では薬剤師が医師に遠慮しがちで、処方提案が十分に行われていない、と指摘。医師と薬剤師の職域がどのように分かれ、協業すべきかを論じた。医師が解剖学や病態学をもとに診断を行うのに対し、薬剤師は薬理学や薬物動態学の知識を活かし、副作用の予測や処方の適正化に寄与する役割を担う。両者の専門性が補完し合うことで医療の安全性が高まる。一般の多くがイメージする医師と薬剤師の職域は図の上だが、本当は図の下であるという。

疑義照会と処方提案を円滑に実施するためのポイント

 藤原氏は、疑義照会や処方提案など、薬剤師が医師にコミュニケーションをとる際に、単に問題を提示するだけでなく、薬剤師も共に考える姿勢を示すことが重要である、と私見を展開。医師が「そのまま出しておいて」と指示を出す状況においても、薬剤師が自身の懸念を具体的に共有することで、医師の行動変容を促す可能性がある。

 また、報告書や面談の場において、薬剤師が気付いたことを速やかに記録し、共有する姿勢が必要である。全ての情報を把握していなくても、提案を行うことが大切であり、断言は避けつつも悩みを共有することで医師との信頼関係を築く。

 エビデンスの提示においては、医師の性格や状況に応じた調整が重要、と藤原氏。提案の際には選択肢を複数提示し、最終的な決定権が医師にあるとして、医師の選択を尊重する姿勢を推奨する。

医療の質を上げるために必要なこととは?

 藤原氏は、患者側の言動についても解説を加えた。患者が薬を飲み続ける背景には、前医や前薬剤師が発した「薬を飲まないと危険」という執拗なメッセージが患者に強い影響を与えていることがあるという。この呪縛を解くためには、現在の体調や薬の副作用に対する具体的な説明を地道に行い、患者の理解を得る努力が必要だ。

 医師と患者の双方が薬の使用に関する責任を曖昧にしている面もある。患者は「医師が勧めたから」、医師は「患者が希望したから」と責任を他者に転嫁し、結果的に不要な薬が継続される。この問題に対しては、薬剤師が薬剤服用の目的や必要性を再確認し、減薬を提案することもできる。

 さらに、前医や上級医の申し送りについて、鵜呑みや気遣いによって矛盾がないかという確認を怠る「オーバーコンフィデンスバイアス」、いわゆる「先生のおっしゃる通りですバイアス」が潜んでいることを指摘。この思考停止状態は、医師にも薬剤師にも見られる可能性がある。権威を無批判に受け入れることで、矛盾のある処方が見過ごされるという危険性。藤原氏は、医師への気遣いを超えて患者の健康を最優先に考える姿勢が重要であると強調した。

 医師と薬剤師の間に対立が生じることは避けられない。対立は、医療の質や医療チームの能力を上げるための建設的な議論の機会となる。藤原氏は、対立を恐れることなく薬剤師の職務を全うすることが重要として講演を締めた。医師と薬剤師で、共通の目標である患者の健康を目標とし、多面的な視点で問題を解決する姿勢が求められる。