いよいよ花粉症シーズンが始まりました。鼻炎症状に加え、眼の痒みなどの眼症状に悩む方も多いでしょう。今号は花粉症の「眼症状」について、OTCの点眼薬の選択方法、またメリットや注意点などを、前号に引き続き薬剤師の児島悠史氏に解説いただきます。

監修:Fizz-DI 薬剤師・薬学修士
児島 悠史 氏


OTC点眼薬の特徴を整理

 OTC医薬品の点眼薬には、医療用医薬品と比較してもあまり遜色のない成分が揃っており、医療用にはない成分の組み合わせや、「使用感」を重視した商品もあります。まずは、OTC医薬品の点眼薬の分類を整理してみましょう(表1)

OTC点眼薬のメリット/デメリット

 ポジティブな面から述べると、OTCの点眼薬には、l-メントールなどの清涼剤を含み、清涼感や爽快感を感じる商品が多くあります。基本的に、医療用の点眼薬には清涼剤は配合されていません。そのため、眼の痒みや熱感、疲れなどに対し清涼感を期待した際に、医療用の点眼薬はマイルドな使用感のものしかないため、少し物足りなく感じてしまう方もいます。このような点は、OTCの点眼薬ならではのメリットだと思います。

 ネガティブな面としては、OTCの点眼薬は、1つの商品に多数の成分が配合されたものが多い点です。目が疲れただけなのに、抗アレルギー薬や血管収縮薬なども含んでおり、不要な成分を点眼することで、余計な副作用のリスクを負うことにもなります。また、多数の成分を配合した点眼薬は高価な商品が多いのも、デメリットの1つでしょう。

眼の痒みに対する2種類の抗アレルギー薬
OTCならではの配合薬もあり

 私の経験上、花粉症の眼の症状に関する相談内容の約9割以上が、眼の痒みです。患者さんが、モデルやYouTuberなど、眼の充血が問題になる場合以外は、充血に関する相談を受けることはあまりないと思います。まずは眼の痒み対策を主眼に、抗アレルギー薬を含む商品を選択します。

 OTCの抗アレルギー薬としては、抗ヒスタミン薬ケミカルメディエーター遊離抑制薬の2つが挙げられます。どちらも医療用医薬品として使われている抗ヒスタミンの点眼薬とも、それほど変わらない効果が得られるとされています。さらに、抗ヒスタミン薬の「クロルフェニラミン」とケミカルメディエーター遊離抑制薬の「クロモグリク酸」は、併用することで高い効果が得られるとされる成分の組み合わせですが、当配合薬は医療用医薬品の点眼薬にはない、OTC独自の点眼薬です。

効果面では大差はない
ライフスタイルで使い分けを考える

 OTCの商品を選択するうえで、抗ヒスタミン薬とケミカルメディエーター遊離抑制薬の使い分けをどのように考えるか。まず、この2つの薬剤の効果の差については、現時点ではあまり明確な優劣は示されておらず、それほど効果を意識して使い分けを考える必要はないと考えています。ただ、ケミカルメディエーター遊離抑制薬は、6週以上使用した際や、花粉の飛散量が多い日では、抗ヒスタミン薬よりも効果が劣る可能性があるとの報告もあり、そうしたケースでは抗ヒスタミン薬の方が多少有効といった可能性はあります。

 安全性の面としては、抗ヒスタミン薬については、眠気への注意が必要です。OTCの点眼薬に含まれるクロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン、ケトチフェンなどの成分は鎮静性に分類され、内服薬と同様に眠気を催す恐れがあります。

 まとめると、「抗ヒスタミン薬は、効果が多少優れる場面もあるといわれているが、副作用として眠気への懸念がある。ケミカルメディエーター遊離抑制薬は、効果が多少劣るかもしれないが、眠気は少ない」。私見にはなりますが、患者さんにOTCの点眼薬を紹介する際には、効果面よりも、日常的に運転等をするかといったライフスタイルをまず考慮し、眠気を不安視される方の場合にはケミカルメディエーター遊離抑制薬を優先するのがよいと思います。

 また、先述したクロルフェニラミンとクロモグリク酸の配合薬については、それぞれ単剤で使うよりも、多少効果が優れているといくつかの論文で指摘されています。「混雑している花粉症シーズンの医療機関には行きたくない。でも、効果の強いものが欲しい」と要望された際には、当配合薬は選択肢の1つに考えられます。しかしながら、眠気が問題にならないかを確認する必要があるでしょう。

保険薬局に置くものは「シンプル」さを重視

 保険薬局でOTCを扱う際は、薬剤師として推奨できる、不必要な成分を含まない「シンプル」なものを選ぶことが、「ドラッグストアとの違い」を示すポイントになります。お勧めの商品例を表2に示します。

 薬の原則は、必要なものだけを使うことです。一般の方は「数多くの成分が入っていた方が、よく効きそう」と思っている面があります。しかし、確かに様々な症状に対して広く効果はあるかもしれませんが、特定の症状に効果が高くなるわけではありません。むしろ余計な成分が増えるほど、懸念すべき副作用などのリスクが増えてしまいます。その結果、メリットよりもデメリットの方が大きいということにもなりかねず、多数の成分が含まれているほど、薬剤師からみれば使いどころがない商品になってしまいます。

コンタクトレンズ装着時の注意
ベンザルコニウムの確認を

 まず花粉症のシーズン中は、基本的にはコンタクトレンズの装着を避け、眼鏡にすることを提案しましょう。眼の痒みを抑えきれず、擦ってしまうことで眼を傷つけてしまう恐れがあります。眼鏡やゴーグルの装着により、花粉の侵入をガードする役割も期待できるでしょう。

 そのうえで、コンタクトレンズを装着時に使用する点眼薬については、添加物に注意が必要となります。点眼薬には、薬液の腐敗・汚染を防ぐために防腐剤としてベンザルコニウム塩化物を添加した商品があります。ベンザルコニウム塩化物は、含水性のソフトコンタクトレンズに吸着して角膜炎を起こしてしまう可能性があり、ベンザルコニウム塩化物を含む点眼薬については、「コンタクトレンズを装着したまま使用しない」よう記載されています。

 ただ、OTC医薬品の説明文書はベンザルコニウム塩化物に関する記載にばらつきがあり、ベンザルコニウム塩化物が添加されているにも関わらず、装着時に使用しない旨の記載がないものも散見されます。説明文書に記載がない場合は、口頭で注意喚起するようにしましょう。

他の点眼薬の使用状況を 確認順番や点眼の間隔を検討する

 OTCの点眼薬を販売する際に確認し忘れやすいことが、他の点眼薬の使用状況です。基本的に花粉症の点眼薬は、相互作用など特筆して注意すべき点があまりないため、何気なく販売してしまうことが多いでのはないでしょうか。他の疾患の治療のために点眼薬を使用している場合、点眼する順番に気を付けなくてはいけません。

 例えば、緑内障治療用の点眼薬を使用後に、抗アレルギー薬の点眼薬をすぐに使用してしまうと、先に点眼した緑内障治療用の点眼薬が洗い流されてしまいます。失明を防ぐための、より重要な薬剤の効果を得られないことになりかねないのです。「重要な薬剤は後」は複数の点眼薬を使用する場合の基本です。

 点眼薬を販売する際には、まず「何か病院から処方されている他の目薬はないですか?」と声をかけるようにしましょう。他の点眼薬を使用している場合は、点眼薬の順番、点眼する間隔、必要に応じて点眼するタイミングをずらす、といったことも考えなくてはいけません。複数の点眼薬を使用する場合には、「吸収の速いものが先」という順序も意識します(図)。素早く吸収されるものであれば、次に点眼する薬剤は、あまり時間を開けずに使用して問題ありませんが、眼に留まって長く作用するような点眼薬の場合、十分に時間を開けて点眼する必要があります。医療用の点眼薬には、点眼後に眼の表面で薬剤がゲル化し、眼に長く留まるような「ゲル化製剤」の点眼薬もあります。水性/懸濁性/ゲル化製剤といった点眼液の性状は添付文書に記載されています。購入者が順番を考えずに使用してしまわないよう、薬剤師が注意しておくべき点だと思います。

患者さんの辛さを緩和するために 点眼薬をプラスして活用

 例年2月初め頃から、花粉の飛散は始まります。その頃から、初期療法として抗ヒスタミン薬や鼻噴霧用ステロイド薬などの花粉症治療薬を服用し始める方もいるでしょう。

 理論上、内服薬の抗ヒスタミン薬や鼻噴霧用ステロイド薬はどちらも鼻炎症状だけでなく、眼の痒みなどの眼症状にも効果があります。ただ、「眼の痒みには目薬を使わなくてはいけない」と思い込んで来局する方も多い印象を受けます。実際に、点眼薬の使用ではじめて眼の痒みがおさまるように感じ、落ち着く方も多いと思います。そのため、「いまの薬で眼にも効果があるため、点眼薬は不要」ではなく、「現在の飲み薬でも眼の症状に効果はあるのですが、いま眼の症状が出てお悩みなのであれば、重ねて使っても問題ないですよ」と、点眼薬を紹介してみてはいかがでしょうか。内服薬の継続服薬を治療のベースとして、眼の症状が辛い時には、必要に応じて点眼薬をプラスするイメージです。点眼薬は、症状が落ち着けば中止しても問題ないものですし、スポット的な問題に活用しやすい薬剤だと思います。花粉症シーズン中の患者さんの辛い症状や思いを和らげるために、うまく点眼薬を活用してみてください。

【参考】よくある!点眼薬の使用上の注意

点眼薬の正しい使い方や保管方法を知らない患者さんにしばしば遭遇します。販売時には患者さんに確認し、必要に応じて情報提供するようにしましょう。

★基本的には1か月程度で使いきり、残りは廃棄する
花粉症の点眼薬は、眼の痒みが辛い期間中のみ使うことがあるため、使い切れないケースも多い。点眼液は雑菌が繁殖しやすいため、基本的に開封後は1か月程度で使い切ってもらう必要がある。「昨シーズンの使い残し」は使わないように。
★点眼後のまばたきはしない
点眼後に「パチパチ」とまばたきをしてしまうと、薬液が眼から涙管を通って喉の方に流れ込んでしまう。その結果、効果が落ちてしまい、さらに全身性の副作用が出やすくなるなどのデメリットも生じる。点眼後は目を閉じて、目頭を5~10秒程度、軽く指で押さえ、薬液を眼の全体に行き渡らせるようにする。
★点眼は1~2滴で十分
一般的に、眼に収容できる液体の量は約30μLほどで、もともと眼を潤している涙の量が約7μLあるといわれる。点眼薬1滴は約30~40μLで、1滴でも十分な量になる。たくさん滴下しても、目から溢れてしまって無駄になってしまう。


児島 悠史 氏

薬剤師/薬学修士/日本薬剤師会JPALS CL6認定薬剤師。2011年に京都薬科大学大学院を修了後、薬局薬剤師として活動。「誤解や偏見から生まれる悲劇を、正しい情報提供と教育によって防ぎたい」という理念のもと、ブログ「お薬Q&A~Fizz Drug Information」やX「@Fizz_DI」を使って科学的根拠に基づいた医療情報の発信・共有を行うほか、大学や薬剤師会の研修会の講演、メディア出演・監修、雑誌の連載などにも携わる。主な著書「薬局ですぐに役立つ薬の比較と使い分け100(羊土社)」、「OTC医薬品の比較の比較と使い分け(羊土社)」。