在宅医療で薬剤師に求められる役割は、薬物療法の管理にとどまらない。褥瘡への対応でも、薬剤の選択だけでなく、栄養状態や生活環境、服薬状況など、発生の背景を捉えることが重要となる。本稿では、在宅療養者の褥瘡に対する薬剤師の介入について、日本褥瘡学会理事を務め、褥瘡・創傷専門薬剤師として現場で活躍する(株)ファーマ・プラス専務取締役の小黒佳代子氏にお話を伺った。


褥瘡を見たら、まず「なぜできたのか」 発生要因を探る

 褥瘡に関わる薬剤師というと、外用薬の選択や服薬指導をイメージする人が多いかもしれません。しかし、在宅の褥瘡治療において薬剤師が担う役割はそれだけにとどまりません。褥瘡は、一定時間の圧迫やズレが局所に加わることにより阻血性障害を起こし発症する疾患です。どの患者さんも発生に至った背景は異なり、一つとして同じ褥瘡はありません。そのため、創部を見たときに重要なのは、「なぜそこに外力がかかったのか」「なぜ同じ姿勢を取り続けてしまったのか」を考え、その発生要因を紐解いていくことです。

 認知機能や身体機能の低下、食事・栄養状態、排泄管理やオムツによる湿潤環境、寝具やギャッチアップの利用、車椅子の利用状況や座位姿勢など、褥瘡には多様な要因が複雑に関与しています。薬剤の影響によって知覚や活動性が低下しているケースも少なくありません。良かれと思って使用していた褥瘡予防用のクッションが、患者さんの座り方により不自然に潰れて局所に強い圧迫を生じさせ、褥瘡につながってしまったケースもあります。

 近年では、褥瘡治療に「TIMERS(タイマーズ)」の概念が取り入れられようになってきました。TIMERSとは、創内の組織(T)、感染・炎症(I)、湿潤環境(M)、創縁(E)、組織修復・再生(R)、患者背景・社会的要因(S)を多面的に評価し、治癒を妨げる要因を探る視点です。特に「S」は在宅医療において欠かせない視点といえます。家族の介護力、オムツの交換頻度、住環境や経済状況といった背景は、体位変換の不足や不適切な湿潤環境を生みだす要因となり、治療成果に大きく影響します。

 外用薬による治療が適切に行われていても、褥瘡発生の根本にある外力や局所環境の悪化要因が解消されなければ、一時的に治癒しても再発を繰り返す可能性があります。だからこそ、私は薬剤師が褥瘡に関わる際は外用薬の選択だけではなく、生活環境全体を含めて自分の目で確認し、発生要因を追究することが重要だと考えています。

● 薬剤の影響によって生じる褥瘡にも注意
 通常、人は同じ姿勢を取り続けて身体に痛みや不快感が生じれば、自然に体位を変えたり、立ち上がったりします。しかし、薬剤による過鎮静や傾眠、無動、知覚の低下などが生じると、自ら体勢を変えることが難しくなり、褥瘡の発症につながることがあります。特に、重複投与や過量投与、誤服用といった不適切な薬物投与により、過鎮静から無動になり、外力が発生して褥瘡を発症した症例は「薬剤誘発性褥瘡」と呼ばれます。
[薬剤誘発性褥瘡の原因となる薬剤例]
催眠鎮静剤・抗不安剤、全身麻酔剤、精神神経用剤、麻薬、中枢神経系用剤、抗てんかん剤 など
 実際に、がん患者さんで麻薬や鎮痛薬などによる眠気が強く、こたつで横になったまま長時間過ごしていたことが褥瘡につながったケースもあります。また、パーキンソン病の患者さんでは、服薬アドヒアランスの低下によって運動機能が低下し、無動となったことで褥瘡に繋がった事例もありました。
 褥瘡の発症リスクに影響を与える可能性のある薬剤を服用している際には、薬剤による眠気や活動性、身体機能の変化などを注意深く観察することが重要です。ただし、「褥瘡の原因になりそうな薬剤を飲んでいるから減量・中止する」という単純な考え方にはなりません。安易な減量や中止が患者さんの不利益につながることもあります。

多職種との共通言語「DESIGN-R🄬 2020」

 DESIGN-R🄬2020は、褥瘡の状態を点数化して評価し、治療による経過を確認するためのツールです(表1)。薬剤師自身が評価を行う機会は多くないかもしれませんが、医師や看護師が評価した内容を読み解き、それに応じた対応を図るための多職種間の共通言語となります。評価項目を把握することで、「創部がどの治癒段階にあるか」「何を解決すべきか」などを共通の目線で話し合うことができるようになるのです。

ガイドラインは目安に
実際の「創の観察」から外用薬・基剤を選ぶ

 褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)では、褥瘡の状態に応じた外用薬の選択肢が示されています。急性期、深部損傷褥瘡が疑われる場合、持続する発赤や紫斑、水疱、びらん・浅い潰瘍、疼痛、浸出液の多寡、感染・炎症、肉芽形成、壊死組織、ポケットの有無など、創の状態に応じて整理されています(表2)。

 ガイドラインは外用薬を考える際の目安として参考になりますが、実際には創部を見て、状態に応じた外用薬を考えることが重要です。私が外用薬を選ぶ際には、主薬だけでなく、滲出液の量と基剤の組み合わせにも着目しています。

 創部を確認する際には、創部の処置(ガーゼの交換)の際から同行し、観察することが大事だと考えます。看護師が洗浄した後の清潔な創部を見るだけでは、処置前の状態を十分に把握できないからです。剥がしたガーゼの湿り気(ガーゼから滴るほどの水分量であれば滲出液の過多、ガーゼが創面に貼りついていたり、外用薬が溶け残っていれば乾燥傾向)、被覆材を剥がした瞬間のにおい(感染や臨界的定着の有無)、創周囲の皮膚の様子(色調、ブヨブヨとした浮腫の有無)などを確認し、創部の状態をアセスメントします。さらに、「滲出液の量に対して基剤の吸水性/保湿性が適しているか」「被覆材で密閉しすぎていないか」といった点も観察します。

 薬剤師が実践的に関わるうえでは、外用薬を選択するだけでなく、適正な塗布量や塗り方、被覆材の使い方、固定方法まで確認し、必要に応じて実技指導やフォローにつなげることが重要です。

栄養面へのアプローチ
栄養素・機能性だけでなく「継続性」も考慮

 低栄養は褥瘡発生のリスク因子の一つとされているため、栄養状態を評価し、体重減少傾向がみられる場合には、栄養剤などを提案することも重要な役割だと考えています。

 例えば、普段の食事量に着目し、一度にたくさん食べられず一食量が少ない場合には、少量でエネルギーを補えるものを検討します。褥瘡がある場合には、アルギニン、たんぱく質、亜鉛などを含む製品を一つの目安としています。

 ただし、栄養素だけで製品を選ぶわけではありません。嚥下状態や摂取形態、味の嗜好、経済状況なども考慮する必要があります。ドリンクタイプ、ジュレタイプ、ゼリータイプなど患者さんが摂取しやすい形態を選び、自費購入の場合には価格面も考慮する。どれほど栄養面で優れた製品でも、患者さんが実際に摂取できなければ意味がありません。薬局だからこそ、単に何を摂ればよいかと伝えるのではなく、患者さんが実際に摂取でき、継続できるかまで考えて提案することが大切です。

 私の所属する薬局では、複数メーカーの栄養食品を扱っており、新製品の情報も積極的に収集しています。一方で、従来製品の中にも、比較的価格が抑えられ、必要な栄養を補いやすく、提案しやすいものがあります。新しい製品の情報を集めることと、価格面も含めて使いやすい製品を知っておくこと。その両方が必要です。

褥瘡を学ぶには訪問同行から
薬剤を生活の中に置いて考える姿勢を

 褥瘡に関わり始めて日が浅い薬剤師であれば、訪問看護師に「褥瘡を勉強したいので、処置の状況などを見せてもらえませんか」と声をかけ、訪問に同行するところから始めるのも一つの方法です。その場で分からなかったことは持ち帰って学ぶ。そうした経験を重ねることで、教科書の知識と実際の創が少しずつ結びついていきます。

 浅い褥瘡で、自身の提案がうまくいき、治癒につながるという成功体験を積み重ねることも大切です。創の状態や生活背景を把握できるようになれば、「この患者さんには、なぜこの外用薬や被覆材を選ぶのか」という根拠を持ち、医師や看護師と相談しながら理論立てて提案できるようになります。

 私は、褥瘡治療に関わることは、患者さんの生活を理解し、多職種と深く連携するための入り口だと考えています。「なぜこの患者さんに褥瘡ができてしまったのか」という問いを起点に、医師や看護師、ケアマネジャー、家族などそれぞれが持つ情報と、薬剤師が持つ薬歴や処方情報を組み合わせ、ともに原因を追究しながら、適切な治療を模索していく。その積み重ねによって、多職種間の信頼関係は強固になり、褥瘡治療における薬剤師の役割も明確になっていきます。

 薬剤師だからこそ見つけられる原因があります。薬剤だけを見るのではなく、薬剤を生活の中に置いて考える。それが、在宅で褥瘡に関わる薬剤師に求められる視点だと思います。褥瘡に向き合うことで、生活背景を見る力が養われ、それは在宅医療全体の質を高めることにもつながります。ぜひ一歩踏み出してみてください。