
遺伝子治療薬の国内承認
2025年8月、Krystal Biotech Japan社の遺伝子治療薬ベレマゲンゲペルパベク(バイジュベック®ゲル)が、「栄養障害型表皮水疱症」に対して承認された。塗布型の遺伝子治療薬が日本で承認されるのは初めてであり、治療法が限られていた本領域における大きな進展といえる。
表皮水疱症とは
「表皮水疱症」は、外部からのわずかな刺激で皮膚や粘膜に水疱やびらんが生じる遺伝性疾患である。皮膚の構造を支える接着構造分子の遺伝子に変異が生じ、表皮と真皮の接着が脆弱化することで発症する。
表皮水疱症の発症頻度はおよそ10〜20万人に1人とされ、指定難病に登録されている。重症例では慢性潰瘍、瘢痕拘縮、手指癒着、食道狭窄、栄養障害、さらには皮膚がんの発生など、全身に影響が及ぶこともある。よくみられる摩擦による水疱や、後天性の表皮水疱症などとの鑑別が必要となる。
表皮水疱症のタイプ
病変の生じる層の違いにより、表皮水疱症は主に以下の3型に分類される。なお、3型とは別に最近「キンドラー症候群」が新たに表皮水疱症に認定された。
単純型表皮水疱症:表皮内で水疱を形成。軽症では手掌・足底のみに水疱が生じる。重症の場合、体幹・上肢・頸部など全身に広がり、口腔粘膜への侵食もある。水疱は表皮上層にあるので通常は瘢痕を伴わずに治癒し、経時的に手掌・足底に過角化や胼胝、びまん性肥厚が現れることがある。
接合部型表皮水疱症:表皮と基底膜の間に水疱を形成。軽症では肘・手・膝・足など摩擦部位に水疱を形成し、乳児期以降は軽快傾向にある。爪異常や脱毛などを伴うこともあるが、瘢痕を伴わず治癒する例が多い。
栄養障害型表皮水疱症:真皮の最上層の線維細網層で水疱を形成。COL7A1遺伝子変異による。軽〜中等症では肘・手・膝・足にのみ水疱が形成され、爪の形成異常のみが主症状となる場合もある。重症では出生時から全身の皮膚・粘膜に浸潤し、広範な表皮の脱落や瘢痕を伴う。
表皮水疱症の治療
表皮水疱症の根治療法は確立しておらず、治療は対症療法が中心。表皮水疱症は、創傷部の慢性化や感染が懸念されるため、それに対応した治療を実施する。
・創傷部の保護による感染予防(非刺激性のドレッシング材により被覆、適切な消毒、抗菌薬)
・疼痛や掻痒対策(対症療法の薬剤投与)
・栄養や貧血管理
・瘢痕拘縮や癒着のリハビリテーション
ベレマゲン ゲペルパベクは、栄養障害型表皮水疱症で変異しているCOL7A1遺伝子の機能的コピーを投与することで、傷の治癒と機能的なⅦ型コラーゲンタンパク質の発現を再投与により実現するように設計されている。この作用により、栄養障害型表皮水疱症の創傷治癒を促す。
表皮水疱症は非常に稀な疾患であり、通常の 薬剤師業務で遭遇頻度は低い。しかし、こうした希少疾患は、薬剤師が存在や治療の方向性を理解し、情報提供の入口として機能することもまた重要と考えられる。
【参考情報】
・Krystal Biotech Japan株式会社バイジュベック®ゲル製造販売承認取得のご案内
・Krystal Biotech Japan株式会社バイジュベック®ゲル製品サイト
・難病情報センター「表皮水疱症」
・MSDマニュアルプロフェッショナル版「表皮水疱症」
・Liy-Wong C, et al. Orphanet J Rare Dis 2023; 18: 38.
・Nita M, et al. Int J Mol Sci 2021; 22: 9650.
・El Hachem M, et al. Orphanet J Rare Dis 2025; 20: 128.
・Rashidghamat E, et al. Chronic Wound Care Manag Res 2017; 4: 27-36.