監修
近畿大学東洋医学研究所 所長・教授
武田 卓 氏

社会において女性の活躍が推進されるなか、月経随伴症状や更年期障害などの女性特有の症状は、経済的にも大きな影響を及ぼしていることが明らかになっています。その一方で、一般の臨床医や産業医では、婦人科で実践されるようなホルモン製剤による対応が難しいこともあり、女性の健康を支援する上での課題もあります。
今回、婦人科領域において西洋医学と東洋医学(漢方)の双方のアプローチを臨床に導入されている近畿大学東洋医学研究所 所長・教授の武田卓氏に、女性特有の症状に対する漢方の意義、月経随伴症状や更年期障害での処方などを解説していただきました。


女性特有の症状による経済的損失は大きい

 労働人口の減少に伴って女性の活躍が推進される一方、女性には男性とは異なる健康上の課題があります。経済産業省の報告書「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」では、欠勤、パフォーマンス低下、離職や休職、追加採用活動にかかる経済損失は、婦人科がん(乳がん、子宮がん、卵巣がん)での約0.6兆円のみならず、月経随伴症で約0.6兆円、更年期症状で約1.9兆円と、がん以外の女性特有の諸症状が大きな影響を及ぼしていることが明らかになっています(表1)。なお、この試算の対象は就労女性のみで、月経のある学生などは含まれないことから、就労女性以外の学業への影響も考慮した場合には、女性特有の症状はさらに大きな社会的損失となっていると推測されます。

 経済損失が発生する要因としては、婦人科を受診することへの抵抗感が挙げられます(表1)。また、月経前症候群(Premenstrual Syndrome; PMS)や月経前不快気分障害(Premenstrual Dysphoric Disorder; PMDD)の症状は精神科や心療内科との境界領域でもあり、精神症状によってそれらの診療科を受診することへの抵抗感もあると考えられ、女性特有の症状に悩む患者が適切なサポートにつながることができていないケースは多いと推察されます。

LEPやホルモン補充療法が
実施しづらい患者では漢方を活用

 女性特有の症状で当院の漢方診療科を受診する患者は、もとから漢方の処方を希望して受診される患者が多い印象です。日本では低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(Low-dose Estrogen-Progestin; LEP)への抵抗感が高くLEPの使用率が低いこと、また更年期障害でのホルモン補充療法に抵抗感があることがその背景と思われます。一方で、婦人科を受診する患者ではそのような偏りはあまりない印象です(表1)。

 女性特有の症状に漢方のみで対処するのは現実的ではなく、西洋医学的なアプローチも含めて患者にとって最善のものを考慮する必要があります。一方で、漢方は禁忌が少なく、西洋医学的なアプローチに制約のある患者において、比較的柔軟に対応できるものともいえます。

● 月経随伴症状

 月経困難症(生理痛)に対してはLEPが効果的ですが、40歳代後半、血栓の既往があるなど、LEPによる血栓症のリスクが高い患者には漢方製剤を使用します。また、前兆のある片頭痛はLEPは禁忌となります。前兆のない片頭痛でもLEPでは脳血管障害のリスクから慎重な判断が求められるため、片頭痛がある患者には漢方製剤による治療も考慮します。

 また、LEPは添付文書上PMSへの適応はないものの、月経困難症に伴うPMS症状の軽減が期待できます。しかし、むくみや精神症状、だるさが残る場合には、漢方も組み合わせて対応しています。PMSやPMDDで精神症状が重篤な場合には、漢方のみで治療を継続することは適切とはいえず、患者に説明をした上で、SSRIを月経前の1週間~10日程度、追加することもあります。

● 更年期障害

 更年期障害では、ほてりやのぼせなどの自律神経症状にはホルモン補充療法が有効で、ホルモン補充療法が適切と考えられる場合には、漢方診療科を受診した患者に対してもホルモン補充療法を実施することもあります。

 しかし、更年期の不定愁訴などはホルモン補充療法のみでは改善しない場合も多く、漢方薬単剤か漢方薬の組み合わせで対応することもあります。また、乳がんなど婦人科系のがんによりホルモン製剤を使用できない患者では、漢方が選択肢となります。

女性の漢方三大処方は瘀血を改善する生薬を含む

 漢方では「気き」「血けつ」「水すい」の概念にもとづいた対応を行いますが、女性は月経があるために「血」の異常が多く、月経困難症(生理痛)、PMS、更年期障害などはいずれも血のめぐりが滞る「瘀血おけつ」が病因とされています。女性に対する漢方の三大処方として、当帰芍薬散とうきしゃくやくさん、桂枝茯苓丸けいしぶくりょうがん、加味逍遙散かみしょうようさんが挙げられますが、いずれも瘀血を改善する生薬が含まれています(表2)。

● 当帰芍薬散とうきしゃくやくさん(No. 23)

 当帰芍薬散には、蒼朮そうじゅつ、沢瀉たくしゃ、茯苓ぶくりょうなど「水」をひく(利水作用を持つ)生薬が含まれているため、むくみやすい人(水毒)に適しています。また、川芎せんきゅう、当帰とうき、芍薬しゃくやくなど「血」をめぐらせたり補う生薬も含まれ、血が不足している状態(血虚)、すなわち貧血気味でフラフラしていたり、めまいがあるような、体力的に弱い患者に適しています。

● 桂枝茯苓丸けいしぶくりょうがん(No. 25)

 桂枝茯苓丸には主に芍薬しゃくやく、牡丹皮ぼたんぴ、桃仁とうにんなどの「血」をめぐらせたり補う生薬が含まれ、瘀血の症状が強い患者に対して典型的な漢方製剤です。首から上は熱いがその下は冷えるといった、冷えのぼせがある患者、比較的がっちりとした体格の患者に適しています。

● 加味逍遙散かみしょうようさん(No. 24)

 加味逍遙散は、症状が逍遥する(次々に移り変わる)不定愁訴の更年期患者などに選択されます。イライラや不定愁訴に対しては柴胡さいこが安定作用を示し、ホットフラッシュにはほてりを鎮める山梔子さんししが作用します。なお、山梔子には弱い下剤作用があります。

 加味逍遙散には、「気」にはたらく柴胡、山梔子、薄荷はっか、「血」をめぐらせたり補う当帰、芍薬、牡丹皮、「水」をひく蒼朮、茯苓などが含まれています。

甘草かんぞうの偽アルドステロン症や
山梔子さんししの腸間膜静脈硬化症に注意する

 漢方では甘草による偽アルドステロン症が知られていますが、女性に対する漢方の三大処方のうち、甘草が含まれるのは加味逍遙散のみで、それも甘草の含有量は少ないため、加味逍遙散を単剤で使用している場合には偽アルドステロン症が問題になる可能性は低いと考えられます。一方で、甘草を含有するその他の漢方薬と組み合わせる場合や、甘草を含むサプリメントや甘味料などからの影響には注意が必要です。

 また、加味逍遙散には山梔子が含まれ、5年以上の長期服用者では腸間膜静脈硬化症が頻度は極めて低いですが発症の関連性が指摘されています。症状が安定している更年期の患者に対し、医師側も意識せず加味逍遙散を継続的に処方しているケースもありますが、下痢や腹痛といった腹部症状が現れた場合には速やかに服用を中止するか、他剤へ切り替える必要があります。

月経関連の症状では「血」が基本
症状によって柔軟に対応する

 月経困難症に対しては瘀血に対する処方を基本とし、三大処方も活用します。ただし、150種類以上もあるとされるPMSの症状それぞれにぴったりと合致する処方はなく、患者の体質や症状をみながら総合的に判断します(表3)。

 例として、PMSの身体的な症状に対しては当帰芍薬散を用います。月経開始後の痛みに対しては痛みの緩和や腹部症状の改善のため当帰建中湯とうきけんちゅうとうに切り替えることもあります。精神的な症状に対しては、イライラが強い場合には加味逍遙散や抑肝散よくかんさんを選択し、気分の落ち込みやクヨクヨするなどのうつ症状が強い場合には、心と体を元気にする補剤として加味帰脾湯かみきひとうを選択することもあります。また、うつ症状で喉(咽頭球)がつかえるような感覚(梅核気ばいかくき:梅の種が喉に詰まったような不快な感覚)がある場合には、半夏厚朴湯はんげこうぼくとうが効果的です。そのほか、補剤として代表的な補中益気湯ほちゅうえっきとうは、胃腸を補い「気」に作用するため、なんとなくからだがしんどいと感じる患者を元気にします。また、むくみやすい患者では頭痛やめまいが起こりやすく、低気圧の接近に伴ってだるさや頭痛を感じる気象病のような症状を呈する患者では、当帰芍薬散と同様に水をひく作用のある五苓散ごれいさんを使用します。

更年期障害では加味逍遙散を中心に

 更年期の症状は閉経後だけでなく、女性ホルモンの分泌が低下する閉経前の時期(周閉経期)からあらわれます。更年期障害では女性ホルモンの変動により自律神経の症状が引き起こされるため、気・血・水のそれぞれにはたらく成分が満遍なく含まれている加味逍遙散を第一選択としています(表4)。

 うつ症状が強い場合は加味帰脾湯、ほてりがなければ柴胡、山梔子を含まない帰脾湯を選択することもあり、イライラが残る場合には抑肝散を追加することもあります(表4)。日本人の更年期障害では肩こりの頻度が高く、その場合には血のめぐりを改善する桂枝茯苓丸を処方します(表4)。ほてりをとるために黄連解毒湯おうれんげどくとうや白虎加人参湯びゃっこかにんじんとうを使用することもありますが、ホットフラッシュがひどい場合にはホルモン補充療法が最も効果的であることを患者にも説明しています(表4)。

4週後に症状の改善を評価
丁寧な診察で症状がやわらぐことも

 当院では、新規の来院患者には診察時間を30分ほど設け、漢方薬が服用可能かの確認も含めて2週後の来院を促しています。2週間で症状の改善がみられることもありますが、原則として4週後に評価を行っています。4週間で症状の改善がみられなければ、処方の変更も考慮します。

 当院の漢方診療科には保険診療と自費診療の2つの予約枠があり、保険診療ではエキス剤の漢方を処方しますが、自由診療では煮出して使用する煎じ薬も使用でき、よりオーダーメイドな対応が可能です。一般的な診療科よりも診察時間が長いこともあり、診察室で医師と話すことで症状が改善する患者も見受けられ、漢方診療科が心療内科のような役割を担っているように感じられることもあります。また、PMSは更年期のリスクファクターであるため、PMSで受診した患者が年齢を重ねて更年期障害でも受診し、患者との関係性が長期になるケースもあります。

漢方も活用しつつ婦人科専門医との連携を

 女性特有の症状で婦人科を受診しない患者に対し、一般の臨床医や産業医の先生方が普段は取り扱わないホルモン製剤を処方することには抵抗を感じられると思います。ですから、まずは諸症状に対する漢方の三大処方を使い分け、うつのような症状では加味帰脾湯を追加、イライラが強ければ抑肝散を追加するなど、2剤程度の漢方を組み合わせながらの対応が重要になると考えられます。それでも症状が改善しない場合には、婦人科の専門医へ患者を紹介していただくことが最善といえます。

PMSや更年期に関する知識をつけ
漢方の基本を理解する

 女性特有の症状に対し、産婦人科以外の医師でも対応可能になることを目標として全国規模のアンケート調査を行った結果、必須とされる漢方の8処方が明らかになりました(TOPIC参照)。初期研修医の産婦人科ローテーションで指導を受けても、わずかな期間で習得できる知識や経験には限界があります。ですから、基本的な8処方について初期段階で学ぶ機会があれば、医師として産婦人科以外の進路を選択した場合でも、女性特有の症状への対応の裾野が広がるのではないかと考えています。

 また、診察室で医師には話せなかったことを薬局の薬剤師さんに打ち明ける患者もいるため、それらの情報を医師にフィードバックできる体制があれば理想的です。さらに、女性特有の症状に悩むかたはドラッグストアでOTCの漢方薬を購入することもあるため、薬剤師さんにもPMSや更年期に関する知識を持っていただき、女性の健康をサポートしていただければ幸いです。

【TOPIC】女性特有の症状に対する必須漢方8処方
 近畿大学東洋医学研究所 所長・教授の武田 卓氏らは、2025年5月から9月にかけて、産婦人科漢方研究会の会員1,421人を対象に、匿名でのWebアンケートを実施しました。女性特有の症状に対し、一般の臨床医においても不可欠と考えられる処方について34種類の漢方製剤から8つを選択する方式とし、255名から回答を得ました。
 その結果、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散の3大処方に加え、五苓散ごれいさん、抑肝散よくかんさん、半夏厚朴湯はんげこうぼくとう、補中益気湯ほちゅうえっきとう、加味帰脾湯かみきひとうの合計8つが高い頻度で選択されました。プライマリケアや産業保健の場面では、産婦人科医以外も女性特有の症状に対応することがあるため、必須の漢方を明確にすることは今後の臨床教育や実地診療に役立つといえます。
(参考書籍・ウェブサイト)
1) Takeda T, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2026; 52(5):e70340.
2)近畿大学プレスリリース(2026年6月12日)https://www.atpress.ne.jp/news/9708011

【COLUMN】西洋医学と東洋医学のハイブリッド:ヌーベル漢方とは?
 患者の病態をとらえる上で、西洋医学では、それぞれの診療科において医師などの専門家が病因を分析して追及します。一方、東洋医学では、気・血・水など西洋医学とは異なる概念から患者の症状全体をみて改善をはかります。現代の医療においては、「和洋折衷ハイブリッド漢方」によって両者の特徴を活かすことができると考えられます。
 武田卓氏はこれを、中華料理にフランス料理のよいところを取り入れたものを「ヌーベルシノワ」と称することにならい、「ヌーベル漢方」と名付けています。女性診療でのヌーベル漢方をテーマとした武田氏の著書は2022年に改訂2版が出版されており、医師以外の医療従事者にも活用しやすい内容となっています1)。
 また、PMSの研究に約20年従事した武田氏によるPMS/PMDDに関する書籍も2026年に刊行されています2)。多様な訴えのある月経随伴症状についての基礎知識、西洋医学や東洋医学(漢方)、補完代替療法も含めたアプローチ、チーム医療や患者教育など、広範にわたる内容について、一般の方から医療従事者までわかりやすく学ぶことができるものとなっています。
(参考書籍)
1) 武田卓.「改訂2版 女性診療で使えるヌーベル漢方処方ノート-西洋医学+漢方医学による診断・治療のすすめかた」.メディカ出版,2022.
2) 武田卓.「明日からできる!PMS/PMDD ベストプラクティス」.診断と治療社, 2026.

【参考文献・ウェブサイト】
1) 経済産業省 女性の健康の取組について
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/jyoseinokenko.html
関連資料(調査報告書等)「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」令和5年度(令和6 年2月)
※令和6年5月一部追記https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/jyoseinokenko/jyosei_keizaisonshitsu_r2.pdf
2) 武田卓.「改訂2 版 女性診療で使えるヌーベル漢方処方ノート-西洋医学+漢方医学による診断・治療のすすめかた」.メディカ出版,2022.


武田 卓 氏
近畿大学東洋医学研究所所長・教授、東北大学医学部産婦人科客員教授。大阪大学医学部卒業。産婦人科医として女性医学、女性心身医学、漢方医学を専門とし、月経前症候群( PMS)や更年期障害など女性の健康課題に関する診療・研究に取り組んでいる。日本女性心身医学会副理事長、日本思春期学会常務理事。趣味はフルート・尺八の演奏と山歩き。