インタビュー先
日本薬剤師会 常務理事

豊見 敦 氏

 2019年12月に公布された薬機法改正において、患者自身が自分に適した薬局を選択できるよう、機能別の認定薬局制度(知事認定)が導入されることになりました。そこで2021年8月より始まった「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局」の認定薬局制度について、日本薬剤師会常務理事の豊見敦氏に当認定制度設立の背景や目的などをお話しいただきます。

患者さんの薬局の選択基準になる認定取得は薬局としての土台があってのもの

 今回の認定制度設立の目的は、「地域住民、国民が、ご自身に適した薬局を選択できるようにする」ことです。薬局に掲示された認定証やその薬局が有する機能(要件)により、この薬局は「在宅ができる」、「座って、プライバシーを確保した状態で話を聞いてもらえる」といったことがわかりますので、自分に適した薬局を選ぶひとつの目安になるでしょう。

 厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会では、2018年4月より10回にわたって薬機法改正に関する議論が重ねられてきました。そのなかで「多くの薬局・薬剤師は本来の機能を果たせておらず、医薬分業のメリットを患者も他の職種も実感できていない」といった指摘を受けています。こうした指摘や2015年の「患者のための薬局ビジョン」を踏まえ、2019年12月の薬機法改正では、薬局・薬剤師のあり方も見直されることになりました。今まで薬局は調剤を行う場でしたが、調剤だけでなくOTC薬を含めた地域で必要なすべての医薬品を供給する拠点であり、他の医療機関と情報共有および連携して一元的・継続的な薬物療法を提供する場と明示されました。これが、薬局としての土台です。忘れてはいけないのは、この土台のもとに掲げられるものが「地域連携薬局」および「専門医療機関連携薬局」、2015年に作られた「健康サポート薬局」といった看板であり、土台をしっかりと築いていなければならないということです()。

地域包括ケア単位に約1件を見込むが地域連携薬局は薬局が目指すべき姿

認定取得件数の動向は今後見守っていきますが、地域連携薬局についていえば、地域包括ケアシステム単位(中学校区単位)に1~2件、全国で15,000件程度を想定しています。ただ最終的に15,000件あれば良いという事ではありません。今回の地域連携薬局は、地域や国民から求められている薬局の姿といえ、より多くの薬局が目指すべきだと思っています。

3つの機能を有することが基本地域の求めに応じて基準を満たす

 薬局の機能を「かかりつけ」、「健康サポート」、「専門的薬学管理」に分けるとすると、薬局はこれらのすべての機能を有することが求められます。この3つを有したうえで「、かかりつけ機能」が一定以上の基準を満たしていれば地域連携薬局、「健康サポート機能」が基準を満たせば健康サポート薬局、「専門的薬学管理機能」が基準を満たせば専門医療機関連携薬局になります。

 地域連携薬局と健康サポート薬局が混同されることもありますが、健康サポート薬局は未病の方へのアプローチに重点を置き、OTC薬の取扱いや健康イベント等を通して、必要な方に対し、適切な受診勧奨を行うといった役割を担います。ただ、地域連携薬局と健康サポート薬局に求められている機能は近しく、地域連携薬局と健康サポート薬局をともに名乗れる薬局が増えることが理想的です。専門医療機関連携薬局も、がんの調剤のみ対応すれば良いという訳ではありません。地域の方に求められれば在宅訪問やOTC薬販売なども実施し、専門医療機関薬局かつ地域連携薬局や健康サポート薬局となることもあるでしょう。

地域のネットワークに進んで参加し、服薬状況や在庫状況を把握して連携

 迅速に提供するために他の薬局への医薬品在庫の提供といった薬局間連携も必要とされています。薬局が地域の患者さんに薬物療法を提供するには、周囲の薬局の調剤情報をきちんと入手できる関係性と環境が整っていることが求められます。かかりつけの患者さんが他の薬局で調剤を受けた場合には、お薬手帳で確認するだけでなく他の薬局からその情報を提供してもらう。医薬品在庫についていえば、薬局の在庫状況をWeb等に公開すれば連携できているかといえば、そうではないと思います。実際の連携の場面を考えた場合、薬局ごとの在庫一覧データよりも、薬剤名から在庫のある薬局を検索できる薬局横断的なシステムが必要になるのではないでしょうか。地域の薬剤師会などが調剤情報や医薬品在庫状況が連携できるようなネットワークを整備していれば、各薬局が進んで参加し、密に連絡を取り合って協力するという姿勢が求められるでしょう。

医療機関への報告は患者個人に着目し、有用な情報を判断する

 地域連携薬局における要件のうち「医療機関に月平均30回以上の報告・連絡実績」について、ハードルが高いと感じられる方もいるかもしれませんが、医療機関とそのくらいの頻度でコミュニケーションを取ることが求められる社会になったと理解してもらいたいと思います。

 報告内容のすべてが、一概に「ハイリスク薬を服用したが、副作用はありませんでした」という報告であれば、医療機関からそのような報告は不要という話になってしまうでしょう。一方で、例えば、「A薬で副作用が見られたが、B薬に変更されたところ副作用は見られなかった」、「同じドライパウダー吸入器であってもこのデバイスではうまく吸えなかったが、今回処方のデバイスではうまく吸えた」などの情報であれば、処方医や他の薬剤師にとっても有用な情報になるのではないでしょうか。背景を含めて患者さん個人に着目し、治療経過において有用な情報を判断していくことが、薬剤師には今後求められると思います。

専門医療機関連携薬局の認定薬剤師専門性が地域にいかに貢献するかを考えて

 「専門性の認定を受けた薬剤師」については、日本医療薬学会の「地域薬学ケア専門薬剤師(がん)」と日本臨床腫瘍薬学会の「外来がん治療専門薬剤師」が該当します(2021年6月14日厚生労働省医薬・生活衛生局総務課事務連絡)。専門性の高い薬剤師が地域の患者さんにいかに貢献できるかという視点が重要です。専門薬剤師の認定取得は、取得を目指す薬剤師という個人単位ではなく薬局全体で取り組んでいただくことが必要です。特にがんのような専門領域に深く関わるには、学位・学会認定など第三者機関に認められるスキルが求められます。現状の薬局業務のままでは専門薬剤師へのハードルは高いかもしれませんが、患者さんにもたらすメリットを考えて薬局としても積極的に取り組んで欲しいと思います。

認定制度は薬局の機能を認知させる機会 薬剤師が個々に情報提供することが一番

 私たち薬剤師の基本的な役割は、リスクマネジメントです。通常に流れているものを滞りなく流しながら、おかしなものが流れてきたら止める。問題が発生しないうちはリスクマネジメントをしている人の存在も感じないかもしれません。それは幸せな状況といえます。しかし、いまはそれだけではなく、薬局・薬剤師の価値をアピールしなければいけない時代になりました。日々行っているリスクマネジメントや何か起きた際に薬剤師は何をフォローできるのかといったことを、地域の患者さんや世間に認知してもらわなければいけません。今回の認定制度は、薬局の取り組みや機能を知っていただく機会でもあります。

 日本薬剤師会は、例年「薬と健康の週間」の機会などを利用して、医薬品の適正使用や薬剤師の役割を啓発する活動を行っていますが、今年は薬局の機能を患者さんにわかりやすく解説するような活動を実施したいと考えています。併せて、それぞれの薬局でも薬局の機能について患者さんに情報提供をして欲しいと思います。先日、薬剤師を扱ったドラマを通して、薬剤師の役割が知られることになったと思いますが、やはり一番理解が深まるのは目の前にいる薬剤師から話を聞くことです。認定薬局の要件すべてを説明する必要はありません。その患者さんのニーズに合った情報を提供し、理解してもらい、薬局を選んで利用してもらう。こうした1件1件の取り組みに勝るものはないと思います。

認定取得のための活動にならないよう地域の求める薬局になることが目的

 最も気を付けなければいけないのは、認定取得を目的とした活動にならないようにすることです。地域包括ケアや専門医療機関との会議にあたっても、「地域の薬物療法は薬局が責任を持って行います」と薬局・薬剤師の役割を示して信頼を得て、連携の関係性を築く。「認定薬局」の看板を出したいがために会議に参加しているように見られては関係性の構築など図れません。認定薬局制度が設けられた理由や2019年の薬機法改正の背景などを理解し、社会のニーズに応えるという意識を持って取り組んで欲しいと思います。

 今回の認定制度は「薬局が何をしているかが見えない。患者さんや国民が薬局を選ぶときの指標を作ろう」という声をもとに生まれたものです。地域住民から求められている薬局になるために認定を取得するというように取り組まなければ、再び社会から姿の見えない薬局となってしまうことでしょう。

豊見 敦 氏 プロフィール
1997年広島大学医学部総合薬学科卒業。 病院、薬局の勤務を経て、現在は南海老園豊見薬局に勤務。2016年より日本薬剤師会理事を務め、2018年に常務理事となる(現職)。厚生労働省の政策検討会にも携わり、保健医療情報標準化会議や医療扶助に関 する検討会などにも参画している。