心房細動の国内患者数は高齢化社会に伴い年々増加しているが、無症状の患者も多く、より多くの患者がいるといわれている。2023年9月28日に開催されたオムロンヘルスケア株式会社メディアセミナーにて、京都府立医科大学不整脈先進医療学講座准教授の妹尾恵太郎氏が、心房細動の概要や治療法、早期発見の重要性などについて解説した。
京都府立医科大学 不整脈先進医療学講座 准教授
妹尾 恵太郎 氏
心房細動とは 頻脈性と徐脈性の2種類
心房細動は心房内に流れる電気信号の乱れによって起きる不整脈の一種で、心房が摩擦したように細かく震え、血液をうまく全身に送り出せなくなる疾患である。さらに心房細動には脈が速くなる頻脈性(100回以上/分)と遅くなる徐脈性(60回未満/分)がある。頻脈性の主な症状は動悸、胸苦しさ、呼吸困難、めまい。徐脈性の場合は失神、めまい、疲れやすさといった症状を呈する。
無症状が4割を占める
現在の国内の心房細動の患者数は、推定で100万人を超えるという。年々心房細動の患者数は増えており、2030年には推定患者数が108万人を超えると予測されている。高齢化社会に伴い、心房細動の罹患率はこれからも上がっていくと予想されている。ただし、京都府立医科大学不整脈先進医療学講座准教授の妹尾恵太郎氏は、「心房細動は4割が無症状で、実際はもっと患者数が多い」と指摘する。
血栓を生み出す心房細動 恐れるは脳梗塞のリスク
妹尾氏は、心房細動を起こしている心臓の状態を次のように解説する。「心臓の中にある電気信号が乱れることで、心房、特に左心房の中の肺静脈の中から異常な電気興奮が発生し、心臓の中をグルグルと回りだす。すると心房が摩擦したように細かく震える状態になる」(図1)。その結果、血液を全身にうまく送り出せなくなるという。
また、心房細動は脳梗塞へ発展するリスクがある。「心房細動によって心房の中で血液がグルグルと充満して淀むことで、血液が固まって血栓ができやすくなる。その血栓が血流に乗って全身に飛んでしまうことがある。血栓が脳へ飛び脳梗塞を引き起こす、これが最も恐れること」だという。
心房細動から起きる脳梗塞を「心原性脳塞栓症」という。「心原性脳塞栓症は他の脳塞栓症と比較して、命に関わる重篤な脳梗塞になることが多い」と妹尾氏は指摘。「一命をとりとめたとしても、麻痺や寝たきりなど重い後遺症を残す方も多い」と話す。
心房細動のリスク高
講演では、心房細動の発症リスクとして、心臓由来の心不全や高血圧、狭心症、心筋梗塞、弁膜症のほかに、心臓由来ではない加齢や肥満、糖尿病、飲酒や喫煙の習慣、睡眠時無呼吸症候群、ストレス、甲状腺機能亢進症が列挙された。
このうち、高血圧、肥満、糖尿病、飲酒や喫煙の習慣、睡眠時無呼吸症候群はメタボリックシンドロームに深く関係している。妹尾氏は「不規則なライフスタイルの人は心房細動になりやすい。」と指摘。心房細動の患者のうち20〜30%が心不全を合併し、全脳梗塞患者の原因の20〜30%を心房細動が占める、といった他の心血管疾患との関係性も解説する。最近では、心房細動の罹患期間が長いと認知症の発症率が1.4〜1.6倍に上昇するともいわれているという。このデータは脳梗塞の既往に関わらないとのことで血管性認知症だけではなさそうだ。心房細動はこうした種々の疾患を引き起こしQOLも低下させる。心房細動を発症させない、あるいは早期の発見と介入が重要だと妹尾氏は説く。
発見から診断、治療までの流れ
妹尾氏によれば、心房細動は軽い息切れや動悸の自覚症状を訴え診断されるケースが多い。
一方で、健診の心電図異常で可能性を指摘されても無症状や軽度の場合は受診されず放置されているケースも多いという。症状があっても軽度であれば徐々に体が慣れてしまいやがて自覚しなくなる、という患者も多い。妹尾氏は、健診結果での異常検知で終わらせることなく、医療機関の受診により診断を確定させ、治療までこぎつけるよう訴える(図2)。
早期発見・早期治療の重要性
確定診断後の心房細動の治療は「ABCpathway」という統合的なアプローチ法に基づく。すなわち抗凝固療法、抗不整脈薬やカテーテルアブレーション※による症状に対する治療、生活習慣病等の併存疾患に対する治療を進めていく。
妹尾氏は、心血管疾患併発の心房細動患者において、心房細動の早期治療が心血管有害事象を有意に減らしたという研究結果を紹介。心房細動の早期治療介入は、心血管有害事象の減少につながるとし、「心房細動を発見した際、1年未満に治療介入すればその後の心血管イベントを下げることができる」と患者さんに伝え、早期の治療開始を促しているという。
※カテーテルアブレーション
カテーテルを足の付け根の血管から心臓の左心房の肺静脈まで入れ、異常な電気信号を出している部位を70度~80度の熱で焼却する方法(心筋の焼却術)
高い再発リスク 家庭での術後経過確認が重要
心房細動はカテーテル治療後も30〜40%の再発リスクがある。また、再発例の半数以上は無症候性という。そのため、術後も家庭等での継続的な心電図記録と経過確認が必要、と妹尾氏は患者さんに伝えている。
妹尾氏は、家庭で心電図を記録した場合と、家庭で心電図を記録せずに通常診療のみ実施した場合の心房細動の再発状況を比較した(図3)。カテーテル治療後に心房細動の再発が検出された割合は、家庭で心電図を記録しなかった通常診療のみの集団に比べ、心電図を記録した集団で多かった。
さらに家庭で心電図を記録することで「40日程度早期に心房細動の再発が発見され、医師の次のアクションに早くつながった」と妹尾氏は振り返り、家庭での心電図記録の有用性を訴える。
セルフモニタリングで実現する働き方改革
患者自身で自分の身体を守る意識づけを
カテーテル治療直後から5年間を追うと、心房細動の再発率は経時的に上昇する。妹尾氏によると、カテーテル治療後の外来間隔やフォロー継続期間は主治医によって差が大きい、という。妹尾氏は、「1年間は主治医がしっかり外来でフォローアップし、その後は、患者さん自身が家庭用の心電図記録などでモニタリングしてほしい。そこで心房細動の疑いがあると検出された際に受診してほしい」と訴える。このようなフォローアップが実現すれば、再発率のリスクをカバーしながら、医師の働き方改革の面から医療従事者の負荷も軽減できると話す。
妹尾氏は「患者さんも自分の身体は自分で守るという時代になってきているので、セルフモニタリングをしっかりしてもらいたい。医師側はそのモニタリング結果を重視し活用していってほしい」とまとめた。
妹尾 恵太郎 氏 プロフィール
心臓病センター榊原病院循環器内科、University of Birmingham, Institute of Cardiovascular Sciences リサーチフェロー、康生会武田病院不整脈治療センターなどに勤務。2018年に現在の京都府立医科大学不整脈先進医療学講座特任助教となり、2023年同大学不整脈先進医療学講座准教授を務める。