婦人科月経関連疾患
月経困難症・PMS/PMDD・更年期障害
女性のヘルスケア領域における疾患とホルモン製剤の正しい理解
生涯月経回数の増加
現代女性が抱える健康リスク
月経困難症とは、日常生活に支障をきたし、臥床・鎮痛薬を必要とするほどの月経痛をはじめとする病的症状を指す。思春期から性成熟期の女性の25%以上に見られるとされ、症状は下腹部痛、腰痛、腹部膨満感、吐き気、頭痛、疲労・脱力感、食欲不振、イライラ、下痢、憂鬱などである。痛みは月経の初日から2日目が最もひどく、痙攣性、周期性を伴うのも特徴だ。
月経時に子宮内膜上皮から産生されるプロスタグランジンにより子宮は収縮する。子宮の収縮は、月経血を子宮から排出させる合目的な作用ではあるが、過収縮により子宮筋を貫く血管を攣縮させて、子宮筋の低酸素状態を招くことから痛みが発生するといわれている。
症状の背景に何らかの疾患がある器質性月経困難症と、疾患を伴わない機能性月経困難症がある(表1)。月経開始 間もない10歳代では機能性月経困難症が多いが、「若年時のひどい月経痛を放置し続けると、子宮内膜症になりやすくなる」と東京歯科大学市川総合病院産婦人科教授の髙松潔氏は語る。
また、現代女性は昔の女性に比べ生涯月経回数が格段に多いことが、月経困難症や子宮内膜症などの増加の一因とされている。初経年齢が早まったことや、少子化・晩産化による出産回数の減少、授乳期間の短縮により、生涯月経回数は1900年頃の約3倍にもなるという。髙松氏は「子宮内膜症の発症機序にはまだ不明な点も多い」としながらも、「毎月の月経のたびに月経血が卵管を逆流して腹腔内に飛び出し、増殖するという『逆流説(子宮内膜移植説)』をとるならば、月経回数の多い現代女性の子宮内膜症などのリスクは過去に比べて多くなり、放置すると将来的な不妊につながる可能性もある」と語る。
月経困難症の有病率は、初経から1年で約5割に上るという報告がある(図1)。中高生女子の患者は母親とともに受診することがほとんどだが、OC(経口避妊薬)やLEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)で治療することへの母親の不安感が強かったり、前述の子宮内膜症発症リスクなどの知識がないと、治療開始に抵抗を示す場合もある。「まず、鎮痛薬や、芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)や当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)などの漢方薬の処方を通じて信頼関係を築き、その後OC・LEPへと段階的に進めることもある」と髙松氏は語る。
疼痛のコントロールに最も多く処方されるNSAIDs(非ステロイド系消炎鎮痛薬)は、プロスタグランジンの産生過剰を抑制することにより鎮痛作用を示す。ただし、痛みを我慢し続け、プロスタグランジンの分泌のピーク時に服用するのでは、タイムラグにより効果が出にくい。月経痛発現の初期段階、または月経開始時に服用することで、効果が得られやすく、服用回数の減少にもつながる。
LEPは排卵を抑制し月経困難症の改善に効果
低用量OCは、含有されるエストロゲンおよび黄体ホルモンの排卵抑制効果などによる安全な避妊薬として、日本では1999年に発売が開始された。当初より、副効用として月経困難症の痛みや過多月経を抑制することが知られていた。その後、含有するホルモンはOCと同じであるが、月経困難症の治療薬として2008年に、ノルエチステロン・エチニルエストラジオール配合製剤(ルナベル®)が子宮内膜症に伴う月経困難症の適応で認可され、LEPと呼ばれるようになった。LEPは自費のOCと区別するための日本での便宜上の区分である。
OC・LEP製剤は「エストロゲン量を減らす」「黄体ホルモンの種類を変える(第1世代から第4世代へ)」「配合量を変える(1相性・3相性)」「飲み方を変える(休薬期間の短縮)」によって、より効果的かつ副作用を減らす方向で進化してきた。低用量OCとはエチニルエストラジオール(EE)の含有量が50μg未満のものをいうが、現在、LEP製剤では20μgが中心だ(表2)。
自然な生理周期に近いことから、28日間1周期(うち7日 間休薬)が長く採用されてきたが、休薬期間中の有害事象を防ぐため、休薬期間の短いタイプや、1周期が長い、いわゆる連続投与の製剤も登場している。
PMS/PMDDに効果が期待されるドロスピレノン含有LEP
PMS(月経前症候群)は、月経前3~10日間に心身に様々な症状が発現し、それが月経開始とともに軽快または消失するものをいう。この時期に多くの女性が訴える症状には、イライラ、のぼせ、下腹部膨満感、下腹部痛、腰痛、頭重感、怒りっぽくなる、乳房痛などがある。一方、PMDD(月経前不快気分障害)はPMSのうち精神症状を中心とするものといわれてきたが、最新のアメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-5ではうつの範疇に入っている。
PMSやPMDDに対してはドロスピレノン含有のLEP製剤が有効とされている。FDA(米国食品医薬品局)ではPMDDへの認可が得られているが、日本では保険適用はないことには注意を要する。また、PMDDへの薬物療法としては、欧米では抗うつ薬のSSRIが第一選択とされている。
OC・LEP 製剤投与例における血栓症発症リスク
OC・LEP製剤は、血栓症の発症に注意が必要な薬剤である。血栓症発症リスクは、年齢や肥満度、喫煙などに関連し、また、使い始めの3ヵ月が最も高いと考えられている。1ヵ月以上の休薬はリスクの高さを治療前に戻すことも知られており、服薬アドヒアランスが重要となる。
しかし、FDAによれば、妊娠しておらず、OCを服用していない女性の深部静脈血栓症発症のリスクが年間10,000人あたり1~ 5人に対し、服用女性では3~9人と報告されている。これは、妊婦(10,000人に5~20人)、産褥12週の女性(10,000人に40~65人)よりもずっと低いリスク
であることも確認しておきたい。
また、連続投与の方が、血栓症発症リスクが少ない可能性を示すデータもある。髙松氏は「欧米では15年前より月経困難症、PMSの8割は連続投与によるOC(LEP)で治療されているという調査結果がある。日本ではようやく2016年に連続投与製剤が市場に登場したところだ」と今後に期待する。
血栓症は、頻度こそ低いものの肺血栓塞栓症など致死的となる場合がある。添付文書記載の禁忌・慎重投与例のみならず、処方時には血栓によって現れやすい初期症状の頭文字を並べた「ACHES」(表3)に従って毎回副作用チェックを行い、十分に注意することが必要だ。
OC・LEP 服用に対する患者の様々な不安
服薬指導時には正確な情報を
日本では、避妊薬としてのOCの普及が他国に比べて遅れている一方、月経困難症治療薬としてのLEP製剤は浸透しつつある。このため、使用に際して誤解や不安が生じる場合もある。不安点としてよく挙がるのは、使用開始年齢や、使用中止後の月経再開、妊孕性への影響などである。
まず、OCの使用開始年齢については初経を迎えれば開始してかまわないとされている。確かに、表2に挙げたOC製剤の添付文書にはいずれも、骨端の早期閉鎖を考慮し、骨成長が終了していない可能性のある女性への投与は禁忌とされているが、日本産科婦人科学会「OC・LEPガイドライン2015年度版」では「初経後のOC処方が骨成長を阻害したとする報告はない」とし、「OCは初経から閉経まで処方できることが基本になっている」としている。髙松氏は「現在のOC・LEP製剤のエストロゲン量がいわゆる中用量ピルに比べて低いといっても、エストロゲン活性はほぼ普通の性成熟期女性のレベルを保つ。心配な人には牛乳・乳製品の摂取と運動など、骨形成に役立つ生活習慣を勧めている」と語る。
OC・LEP中止後の月経再開については、約9割の患者で中止3 ヵ月以内に再開したという報告がある。また、欧州のコホート研究でOC中止後1年間の妊娠の有無を追跡したところ、OC・LEP服用後女性の妊娠率は、一般女性とほぼ同じであったという。こうした結果から、OC・LEPは服用中止後の妊孕性にも影響がないと考えられている。
また、OC・LEP服用開始後早期には、出血、胸が張るなどのマイナートラブルがしばしば経験されるが、経過とともに頻度は低下し、3年間継続服用した患者では3%ほどになるといわれている。髙松氏は「吐き気、胸の張り、頭痛などの不調は、休薬期間に発現することが多い。また黄体ホルモンの種類によって発現頻度は変わり、レジメン(投与日数や投与量、黄体ホルモンの種類など)の変更でおさまる症状も多い。連続投与ができる薬剤への変更などの可能性を伝え、治療継続の意義を理解してもらうことが重要」と指摘する。
さらに、がんの罹患リスクについても不安視している患者は多い。乳がんについては、OC・LEP服用における相対リ スクは1.19倍との報告¹)がある。しかし、このリスクを日本人女性にあてはめると、OC・LEPを服用する年齢層における乳がん罹患率が1万人あたり約7.7人と計算されることから、これがOC・LEP服用で9.2人、つまり1万人あたり1.5人増加するという程度である。また、子宮頸がんについて、OCの長期の服用によりリスクが増加するという報告もある。
一方、子宮体がん(子宮内膜癌)、卵巣がん、大腸がんなどは、OCの服用によりリスクが低下する。子宮体がんでは、一生に15年間服用すると75歳時点での累積リスクが半分になる²)ことがわかっており、「OC・LEPガイドライン2015年版」ではOCの使用中止後もリスク低下が持続するとされている。
正しい管理で行えばOC・LEP製剤の有益性は大きく、女性のQOL向上に効果的だ。そのメリットを生かすには、副作用リスクの不安を解く正しい説明も必要となる。服薬遵守のために、薬剤師の果たす役割は大きいといえる。
エストロゲンレベル低下による多彩な症状
更年期に特有の疾病の除外診断で確定
閉経とは生殖年齢の終焉であるが、定義としては12ヵ月の無月経であり、日本人女性の中央値は50.54歳である。一方、更年期とは、閉経をはさんだ前後5年の計10年間を指す。この10年間には、閉経に伴う女性ホルモン(エストロゲン)レベルの急激な低下が起こる。この期間に、女性が訴える多彩な症状のうち、器質的変化に起因しない症状は「更年期症状」と呼ばれ、中でも日常生活に支障をきたすものが「更年期障害」とされている。
更年期障害は、ホットフラッシュ、疲れやすさ、めまい、動悸、頭痛、肩こり、腰痛、足腰の冷えといった身体的症状と、抑うつ、不眠、イライラ感、不安感などの精神的症状から構成される。こうした症状は、エストロゲンレベルの低下を主因として、加齢などの身体的要因、成育歴や性格などの心理的・性格的要因、職場や家庭における人間関係などの社会的・環境的要因が複合的に影響し発症すると考え
られている。更年期障害に対する薬物療法は、HRT(ホルモン補充療法)、漢方薬、抗うつ薬などがあるが、まずは十分な問診や生活習慣の改善指導も重要になる。
また、更年期障害と似た症状を呈する疾患として、甲状腺機能異常やうつ病などがあるため(表4)、これらの疾患の可
能性を排除、つまり鑑別診断したのちに、「更年期障害」と診断される。とくにうつ病については頻度が高く、患者も更年期障害との診断に期待していることがあるため注意を要する。
HRT用製剤には経口・経皮・経腟がある
経皮薬では血栓リスクは上昇しない
更年期障害に対するHRTでは、合成女性ホルモンが使用されるOCによる避妊治療とは異なり、天然型エストロゲンである17βエストラジオールや、妊馬尿より抽出・精製され10種類以上のエストロゲン様物質が含まれる結合型エストロゲンが使用される。また、エストロゲン活性についても、1錠あたりではOCやLEPの1/4 ~1/8である。40歳代以降でも月経困難症の治療などのためにOC・LEPは使用されているが、「OC・LEPガイドライン2015年度版」では40歳以上に対するOCは慎重投与とされており、50歳以降は血栓症リスクの関係からOC・LEPは禁忌であるため、閉経あるいは50歳を境にHRTへ切り替える。
ここで、更年期障害以外の適応をもつ薬剤を含め、HRT
用製剤について紹介する。現在、国内で使用できるエストロゲン製剤は、経口薬、経皮(貼付、ゲル)薬、経腟薬の4タイプ。経口薬と経皮薬には、エストロゲン単剤とエストロゲンと黄体ホルモンの両方が含まれた配合剤がある(表5)。日本産科婦人科学会・日本女性医学学会の「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」では、HRTは血管運動神経症状、萎縮性腟炎・性交痛の治療、骨粗鬆症の予防と治療に有用性がきわめて高いとしている。
HRTもエストロゲンを含むため、乳がんや血栓症が懸念される。このうち乳がんリスクについては別項で解説する。また血栓症については経口薬では静脈血栓症リスクはオッズ比で1.5程度である。一方、貼付剤、ゲル剤などの経皮薬では肝初回通過効果がないため、血栓リスクは上昇しないと考えられている。
子宮を有する更年期障害患者には黄体ホルモンを併用
HRTの中心となるエストロゲン製剤は、子宮を有する女性に単独で投与すると、子宮内膜増殖症や子宮体がんの発症リスクが高まる。そのため、子宮を有する更年期障害患者では、黄体ホルモンの併用が必須である。髙松氏は、この投与の大原則がまだ浸透していないことについて憂慮しており、「薬局でもチェックしてほしい」と語っている。
エストロゲン・黄体ホルモン併用療法には、周期的併用投与法と持続的併用投与法がある(図2)。周期的併用投与法では黄体ホルモンを12~14日(エストロゲンも休薬する間欠法では10~12日)投与して、生理様の出血を定期的に起こす。また、持続的併用投与法は、黄体ホルモンを連続して使用することで子宮内膜を萎縮させ、原則的には出血を起こさせない方法である。施行初期に不正出血が起こることがあ
るため、閉経して一定期間経過した人に行うことが多い。マイナートラブルを訴える場合は、レジメンの変更も考慮する。
なお、骨粗鬆症治療薬のSERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)であるバゼドキシフェン(ビビアント®)は子宮内膜保護作用があるため、HRTでも適用外だが黄体ホルモンの代わりとして使用される場合がある。さらに、黄体ホルモンとして、ミレーナ®を使用する場合もある。
乳がんリスクの上昇は生活習慣のそれ以下
子宮体がん、大腸がん、胃がん等は減少
HRTのリスクとして最も懸念されるのは乳がんであろう。2002年米国WHI(Women’s Health Initiative)の中間報告での「乳がんリスクの上昇」により臨床試験が中止されたことは、各国のメディアに大きく取り上げられ、世界的に大 きな影響を与えた。
しかし、その後の検討からHRTによる乳がんリスクへの影響は、アルコールや脂肪摂取、肥満といった生活習慣によるリスクと同等か、それよりも低いことが明らかになっている。髙松氏は、「2017年度版ガイドラインにおいても、『乳がんリスクに及ぼすHRTの影響は小さい』と明記されている。ただし、家族歴など患者の潜在的なリスク因子には留意し、開始前とともに、開始後も定期的に乳がん検診を受ける必要性を伝えることが重要」と語る。その他のがん種について、子宮体がんは、黄体ホルモン併用を正しく行っているHRTでは、HRTをしていない人と同等かそれ以下にリスクが下がるとされる。子宮頸がんには影響せず、大腸がん、胃がん、食道がん、肺がんのリスクを下げることもわかっている。
また、冠動脈疾患については、50歳代または閉経後10年以内の女性に対しては、HRTは動脈硬化の予防効果が高く、むしろベネフィットがリスクを上回るとされている。
髙松氏は「かつて、HRTの施行はWHI報告で乳がんリスクが増加しなかった5年以内に限るというような誤解があったが、全くの間違い。2017年度版ガイドラインでもその人の症状とニーズに合わせた薬剤・投与法・用量の選択、投与年数を考慮してHRT処方を行うことを推奨している」と語る。
漢方薬や抗うつ薬も各薬剤の投与法を理解し指導を
漢方では、三大婦人漢方薬といわれる当帰芍薬散、加味逍遙散(カミショウヨウサン)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)が多く処方される。また、植物エストロゲンとして知られる大豆イソフラボンのうちのダイゼインが腸内細菌で変換された代謝物である「エクオール」を含 有したサプリメント(エクエル®)なども、更年期症状を改善すると報告されている。
うつ、不安、不眠などの精神的症状が強い場合には、抗うつ薬も使用される。とくにSSRIは精神的症状のみならず、ホットフラッシュの改善も報告されており、米国ではnon HRTの治療法としてFDAが認可している。ベンゾジアゼピン系については認知症リスクなどもあり、漫然と使うことは避ける。
仕事を持つ中高年女性が増えていることや、最近のストレスフルな社会環境により、女性の健康相談において更年期障害やHRTについての質問の頻度は、増加していくことが予測される。現在の日本人女性にとって更年期は人生の折り返し地点であることから考えれば、更年期医療が女性の健康寿命を延ばすプライマリケアの大きな柱であることは容易に理解できよう。HRTの服薬指導に精通した薬剤師の存在が求められている。
■引用文献
1)Mørch LS, K, at al; N Engl J Med. 2017;377:2228-2239.
2)Collaborative Group on Epidemiological Studies on
Endometrial Cancer. Lancet Oncol. 2015 ;16:1061-1070.