監修 東京逓信病院皮膚科 部長 三井 浩氏
赤く盛り上がった紅斑とその表面を覆うかさぶたのような白い鱗屑、それがフケのようにぼろぼろと剥がれ落ちる落屑。難治性であることに加えて外見上の問題からQOLが著しく障害される乾癬。近年、その免疫学的な病態が解明されつつあり、それに伴い薬物治療も大きく変容をとげています。長年乾癬の診療に携わる東京逓信病院皮膚科部長の三井浩氏に、乾癬のメカニズムや治療について解説していただきました。
増加する乾癬患者は国内で約50万~60万人
特徴的な皮膚症状のほか、手足の指の腫脹や爪病変の場合も
乾癬はもともと欧米人に多い疾患とされていましたが、日本人の食生活が欧米化したことが影響しているのか、日本でも患者数は年々増加傾向にあり、現在では乾癬の患者数は約50万~60万人にのぼるともいわれています。境界明瞭な隆起性の紅斑とかさぶたのような厚い銀白色の鱗屑、それが剥がれ落ちる落屑といった特徴的な臨床所見を呈し、外見上の問題からもQOLが著しく低下する疾患とされています。「皮膚疾患=痒い」というイメージがありますが、乾癬で痒みがあるのは全体の5~6割程度です。皮膚が赤くなることからアトピー性皮膚炎と混同されることもありますが、よく見ると、雲母状の銀白色の鱗屑が乾癬の特徴的な症状であり、視診でほぼ診断が可能です。また、鱗屑を剥がすと点状に出血するアウスピッツ現象や、皮疹のない部位に機械的な刺激が加わると新たな皮膚病変が誘発されるケブネル現象が見られるのも乾癬特有です。肘や膝、腰や臀部など衣服による刺激を受ける部位や毛髪の刺激を受ける頭部などが乾癬の好発部位となっています。
こうした症状は、乾癬の約90%を占める「尋常性乾癬」の特徴ですが、他の症状を呈する乾癬もあります。直径1cm程度の小型の皮疹が急に全身に出現する「滴状乾癬」、未治療または不適切な治療などの影響により尋常性乾癬が増悪し皮膚全体の80%以上が赤くなる「乾癬性紅皮症」、発熱や悪寒に伴いうみを持った水疱が発現する「汎発性膿疱性乾癬」、中枢(腰)や末梢(手足)の関節に腫脹や疼痛を呈する「関節症性乾癬」です。末梢の関節炎を伴う場合、高率に爪病変(爪甲表面の点状の凹みや爪甲剥離、爪甲の混濁など)を伴います。
乾癬はTh17細胞性の自己免疫疾患
他疾患に対する治療薬投与が病態解明のきっかけに
乾癬は炎症性角化症の代表的な自己免疫疾患ですが、近年、その病態にはT細胞のひとつであるTh17細胞性免疫の亢進が関わっていることがわかってきました。このTh17細胞が正式に同定されたのが2005年ですが、それ以前は、自己免疫疾患は、細胞性免疫を司るTh1細胞による免疫応答と、液性免疫を司るTh2細胞による免疫応答のバランスの破綻で生じる疾患と考えられており、乾癬はTh1細胞の免疫応答が過剰に働いたことによるものと想定されていました。しかし、Th17細胞という新しい免疫系の役割が解明されたことで、炎症性疾患として病態解明が大きく進んだのです。また、それまで乾癬の病態悪化に関与すると考えられていたTh1細胞は、逆に乾癬の病態を抑制する方向に働いていることがわかってきました。
Th17細胞が同定される以前は、乾癬の病態は、他の疾患に対する治療の副次的な結果により少しずつ解明されてきました。古くは、T細胞機能を強力に抑制する免疫抑制剤シクロスポリンの例で、肝臓移植を受けた乾癬患者の皮膚症状が、移植時に使用したシクロスポリンにより劇的に改善したことで、それまで表皮角化細胞の異常に基づく疾患ととらえられていた乾癬が、T細胞性免疫が関与する自己免疫疾患であると考えられるようになりました。また、骨粗鬆症の患者にビタミンD3を投与したところ、合併していた乾癬が軽快したことから、乾癬にビタミンD3が関与していることが考えられるようになり、ビタミンD3外用剤の開発が進みました。こう した中、Th17細胞の発見により乾癬の病態が整理され、今度は逆に病態から治療を考えられるようになってきたのです。実際に、乾癬を合併したクローン病患者に対するTNF-α阻害薬による治療で、乾癬の皮疹が劇的に改善したことなどから、乾癬の病態にTNF-αが深く関与していることが示されました。
乾癬の免疫応答
TIP-DCやTh17細胞のサイトカイン産生による悪循環
実際に乾癬ではどのような免疫反応が起こっているのか、その機序を整理してみましょう。乾癬の病変部では多数の樹状細胞が皮膚に浸潤しています。樹状細胞にもさまざまな種類がありますが、その中でも乾癬の病態に重要な役割を果たすのが腫瘍壊死因子のTNF-αを産生する樹状細胞TIP-DCです。外的刺 激や感染などにより活性化したTIP-DCはTNF-αを産生し炎症反応を惹起しますが、それと同時にIL-23を産生します。IL-23はヘルパーT細胞のTh17細胞への分化を誘導し、Th17細胞から炎症性サイトカインであるIL-17、IL-22が産生されます。IL-17やIL-22は表皮角化細胞の炎症や増殖を引き起こし、表皮の好中球や単球、Tリンパ球からのTNF-α産生を誘導します。それによりTIP-DCがさらに活性化されます。また、TIP-DCから産生されたTNF-αはオートクリンにTIP-DCを活性化させますので、TIP-DC活性化、Th17細胞分化誘導、炎症性サイトカイン産生が悪循環のように続いてしまうのです。また、TIP-DCからのIL-12産生によりTh1細胞の分化が誘導され、IFN-γが産生されることも、表皮角化細胞の炎症に関連するとも考えられています。さらに、最終反応とし ては、表皮角化細胞が血管内皮細胞や好中球へもたらす影響も報告されています(図1)。
免疫学的に生物学的製剤の特徴を理解
抗体の構造の違いによる効果の違いも
乾癬の病態形成の免疫学的機序が解明されるにつれ、病態形成に関わるサイトカインにターゲットを絞った生物学的製剤が次々と導入されました(表1)。抗TNF-α抗体は、免疫応答の初期の段階から関与するTNF-αを阻害しますので強力な作用を示します。ただし、TNF-αは腫瘍壊死因子として広範な作用を持つため、TNF-αの作用を阻害 することは、乾癬に対する特異的な免疫制御とはいえない部分もあります。
図1に示したとおり、IL-23 はTh17細胞の分化を誘導します。このIL-23を標的とした抗体(抗IL-12/23p40抗体、抗IL-23p19抗体)は、T細胞の分化に関わるプロセスを阻害するため、効果発現までに多少時間がかかるのが特徴です。またIL-23は、IL-12共通のサブユニットp40とIL-23特異的サブユニットp19のヘテロダイマーですので、抗p40抗体の場合は、IL-23だけでなくIL-12も阻害します。そのため、Th1細胞の分化も阻害されることになります。一方で、サブユニットp19に対する抗体では、IL-12への影響はなく基本的にIL-23のみを阻害します。
抗IL-17A抗体、抗IL-17受容体A抗体は、最終的に局所で乾癬病変を形成するIL-17の作用を阻害します。このことから、効果発現は比較的早いと考えられます。ただし、IL-17を含むTh17関連サイトカインは、皮膚、肺、腸管上皮などにおいて、細胞外寄生性細菌や真菌に対する感染防御に関与しているため、IL-17の抗体薬は皮膚や粘膜における感染リスク、特にカンジダ症などの真菌感染症のリスクを上昇させるといわれています。
また、抗体の構造の違いによっても効果に違いが出ます。抗体医薬品は主に、マウス抗体、キメラ型抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体の4種類に分類されます(図2)。キメラ型抗体はマウス抗体の定常部をヒト抗体に置換したもの、ヒト化抗体はマウス抗体の相補性決定領域(CDR)以外を全てヒト抗体に置換したものです。Fab領域にマウス抗体を使うほど標的分子との結合力は高くなりますが、その分、異物として認識されやすくなるため免疫原性が高くなり、抗体薬に対する中和抗体が出現する頻度が高まります。免疫原性は臨床的には二次無効として現れてきます。
乾癬マーチ
乾癬と心血管疾患との関連
健常人と比較して、乾癬患者ではメタボリックシンドロームが多いことが、これまで海外で報告されてきました。しかし、それだけでなく、乾癬自体が心筋梗塞などの独立したリスク因子であることもわかっています。その基盤にあるのが、TNF-αやIL-17、IFN-γなどのサイトカインによる全身性の炎症です。Boehncke WHらは、乾癬に伴う全身性炎症がインスリン抵抗性を生じさせ、それが血管内皮細胞障害の引き金となって、冠動脈のアテローム性動脈硬化をきたし、最終的に心筋梗塞を発症させる「乾癬マーチ」という概念を示しています(図3)1)。TNF-αの血中濃度を著しく上昇させる肥満は、乾癬発症のリスク因子、症状増悪のリスク因子であることもわかってきました。実際、肥満のある乾癬の患者で5kg減量を行うと症状が改善することを多く臨床で経験しています。
また、乾癬患者ではうつ病などの精神症状を合併するケースも多く、乾癬により濃度が上昇した血液中のTNF-αが脳に作用してうつ病発症に関与するといわれています。乾癬の治療で抗TNF-α抗体製剤を投与するとうつ病が改善したという報告も見られます。ただし、インフリキシマブやアダリムマブはうつ病に対する適応を有していません。
患者のQOL改善を重視し、外用療法、光線療法、内服療法、生物学的製剤から選択
乾癬治療の目標は、病勢のコントロールとQOLの改善です。乾癬は、寛解と増悪を繰り返すことの多い難治性の疾患で、多くの乾癬患者では、皮膚症状による外見の変化や落屑の量、外用療法の手間などにより、精神的・肉体的ストレスを抱えています。また、外見の印象から他者に感染する疾患なのではないかという誤解も、依然として存在すると思われます。就職や結婚などにも影響を及ぼしているケースもあるといわれ、乾癬患者の顕著なQOL低下が指摘されています。こうしたことから、乾癬の治療においてはQOL改善が非常に重視されます。
乾癬の治療では、重症度や関節症状の有無などの臨床症状、合併疾患の有無に加えて、通院可能な頻度や治療に対する個々の患者の考え方、生活スタイル、周囲の理解等、個々の患者を取り巻く環境なども考慮します。頻回な通院が可能であれば光線療法が選択される場合もありますし、外用療法で改善が見られずQOLが著しく損なわれていれば、すぐに生物学的製剤の投与を検討することもあります。
ここまで、乾癬の免疫学的な病態を解説し、それに対応する生物学的製剤について説明しましたが、もちろん全ての患者で生物学的製剤による治療が行われるわけではありません。生物学的製剤は、基本的に「既存治療で効果不十分な場合」という位置づけで、他には、外用療法、光線療法、内服療法があります(表2)。いずれの治療が選択されるかは、重症度や症状、患者の生活スタイルなどによりますが、軽症から重症まで、乾癬治療のベースとなるのは外用療法です。まずは外用療法で治療を開始した上で、その後の治療戦略を考えていきます。外用薬としては、活性型ビタミンD3とステロイドを用います。また、内服療法には、レチノイド、シクロスポリン、アプレミラストのほか、公知申請の結果2019年3月よりメトトレキサートが乾癬に適応となりました。
生物学的製剤を使用する場合には、投与経路や投与間隔、標的分子などそれぞれの製剤の特徴を考慮し、重症度や関節症状の有無、患者の年齢や自己注射ができるか否かなどを加味して選択肢を提示し患者さんとともに薬剤選択を行っていきます。治療法の決定に際して非常に重要なのは、“shared decision making”(共有意思決定)です。どのような治療を選択していくか、薬剤は何を選択するかなど、患者さんとともに決定していくことが大切です。
外用薬の処方や指導では、患者の治療意欲に配慮
リフレッシュを図り処方製剤を変更することも
乾癬は寛解と増悪を繰り返すことの多い難治性の疾患で、治療開始時は効果が得られても、そのまま寛解状態を維持することは困難なケースが多いです。そのため、特に長期にわたる外用療法では、いかにアドヒアランスを維持させるかが重要となります。外用薬の塗布では、FTU(フィンガーティップユニット)※といった、外用薬の適正量の基本的な知識は必要ですが、あまりにそれにとらわれてしまうと、患者さんは外用薬を塗ることに疲れてしまい、かえってアドヒアランスが低下することもあります。
アドヒアランス維持のためには、外用薬を塗ることに疲れていないかなど患者さんの精神面も配慮しながら、活性型ビタミンD3とステロイドの混合調剤や配合剤に変更し、患者さんの負担を軽減するという手段もあります。また、外用薬の処方では、同効の別製品に変更することが有効な場合もあります。これは、症状の程度に合わせたステロイドのランク変更という意味ではありません。同じ製品の外用薬の塗布を継続していると、患者さんが塗り飽きるということもあるのです。「ローテーションセラピー」という考え方で、外用薬の製品を変更することで、気分転換を図ることができ、塗る意欲が増すことがあり、こうした方法も考慮しながら、工夫して治療を継続します。
また、外用薬塗布の指導ではFTU以外に別の表現を用いることもあります。ケブネル現象を出現させないためには、「強く擦りこむのではなく、皮膚表面がテカテカするくらいの量をやさしく塗り広げるように塗り、塗り終わった後にティッシュをあてると少し貼りつくくらいの感じの仕上がりに」というような説明をしています。ただし、乾癬治療でよく用いられる活性型ビタミンD3は、単純にたっぷりと量を塗ればいいというわけではありません。1日10g以上使用してしまうと血中カルシウム値が上昇することがあります。外用ステロイド剤も強さと塗布部位、外用量で生じる局所的、全身的な副作用があります。特に乾癬の皮膚症状が強く出て紅皮症状態となっている状態や、小児やご高齢の患者さんでは外用薬の経皮吸収が上がりますので、病態などに応じた注意が必要になります。
※FTU:口径5mmのチューブに入った軟膏を、大人の人差し指の先から第一関節の長さまで出した量(約0.5g)。1FTUは手のひら2枚分の患部に塗る量の目安。
乾癬診療における薬剤師の関わり
関節症性乾癬の可能性を考慮し、医師と患者をつなぐ
近年、乾癬の患者数は増加傾向にありますが、その中でも特に目立つのは関節症性乾癬です。関節症性乾癬では、まず皮膚症状が発現し、その後、手足の指の腫脹といった関節症状や爪病変が発現するケースが多いとされています。しかし、皮膚症状と関節症状が無関係と考える患者さんは多いでしょう。皮膚科領域でも、関節症性乾癬についての研究報告が頻繁に見られるようになったのは近年になってのことですので、医療者側の認識もまだ十分とはいえません。整形外科の診療などでは、関節症性乾癬が見逃され、関節症状に対する痛み止めが処方されるのみのケースもあると思われます。
そのような場合、複数の診療科の処方を扱う薬剤師さんが介入することは、非常に意義があります。乾癬で関節症状が出現することもあるという情報を患者さんに提供し、「乾癬で治療中ということを整形外科の先生にお話ししていますか?」「関節に痛みがあることを皮膚科の先生に話されていますか?」などのコミュニケーションをとっていただければと思います。関節症性乾癬では、診断が半年れるだけで骨破壊が発生し、関節の変形が進行するといわれています。関節は一度変形すると元には戻りませんので、特に乾癬の関節症状を見逃さないことが重要なのです。
乾癬は、QOLが著しく損なわれる疾患のため、患者さんの精神面にも配慮しながら服薬指導を行っていただけると嬉しいです。また、乾癬の皮疹が出現し始めた時期、まず薬局にOTCを買い求めにくる患者さんもいると思われます。薬剤師さんは乾癬の患者さんがファーストコンタクトをとる医療従事者となりえます。乾癬の基本的な臨床症状を理解していただき、的確な情報提供と受診勧奨を行っていただくことで、早期介入、早期治療開始が実現可能となると思います。
1)Boehncke WH, et al. Exp Dermatol. 20(4): 303-307, 2011.