Pから始まるSOAP

薬機法が改正され、患者フォローアップのための資料として、薬歴の重要性は高まりつつある。服薬ケア研究会による、より良い薬歴を書くためのセミナー「薬歴の達人」第7回は、11月23日(土、祝)に名古屋市の愛知県薬剤師会館で開催された。会場のほかにweb中継で参加した薬剤師も多く、薬歴作成への関心と熱意が伺えた。

実務上ほぼ必須のノウハウ「PからはじまるSOAP」

今回のテーマは「PからはじまるSOAP」。本誌前号(2020年1月号)に掲載した薬歴の達人では、アセスメントを更新する重要性を紹介した。本来であれば、アセスメントを更新しながらプロブレムを見つけていくのが正攻法である。しかし、実臨床では、患者から十分な情報を引き出し、プロブレムの発見やプランへ繋げられる環境が常ではない。情報入手の時間すら想定したようには確保できないケースを経験している読者も多いことだろう。今回は、こうしたケースのように、アセスメントを中心にSOAPを完成させることができなかった時のための方法論である。
理想的な手順で服薬指導ができなかった場合、自身が指導した内容を元に、P、A、O、Sの順で、SOAPを逆向きに組み立てていくと、多少、情報入手やアセスメントが十分でなくとも、それなりのSOAPを完成させることができる。そして、これが実施できると、ほぼすべてのケースで、Problem Oriented(問題指向型)に指導を組み立てることができるようになる、とのことだ。

「PからはじまるSOAP」の方法

まず、自分が行った「指導内容」(P)に着目する。そのためには、服薬指導をする際、患者の発言だけでなく自身の発言(指導内容)のメモをとっておくことが必要と なる。そのメモがあれば、Pに着目し、内容を振り返ることが簡単にできるからだ。次に、そのPがなぜ必要と思ったのか(A)を考える。そして、OやSをクラスタリング(同 じアセスメントを導くためのOやSをいくつかのグループにまとめること)し、それぞれのクラスターに当てはめていく(表1)。

服薬ケア研究会ご提供

「PからはじまるSOAP」の実践

今回のワークショップでは、処方時に薬剤師と患者で交わされた全会話が記録されたシナリオが配布された。まず、シナリオを読んで、指導内容(P)に当たる部分に 線を引く。また、Aを意識した上で、同じクラスターになると考えられるPに仮に番号を付ける。次に、患者情報(SまたはO)にPとは異なる色の線を引き、Pに対応する番 号をそれぞれ振る。SなのかOなのかという判断は、SOAPに仕上げる最終段階で行えば良い。
薬歴は通常、服薬指導を終え患者が帰ったあとにその会話をメモや記憶から逆向きに辿ることも多いため、この方法では会話の後ろからPを探す。表2のシナリオで実践してみると、Pとして薬剤師のセリフ⑬が発見される。薬剤師のセリフ⑫、⑧、⑦、⑥もPだが、⑬とは異なる内容のため、異なる番号をつける。Pの内容が、どれと同じでどれと異なるのか、その判断が重要だ。この場合、⑬は降圧薬関連、⑫⑧は食事関連、⑦⑥はコレステロール関連という、3種類のPがあることが判明した(表2の1、2、3)。

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次はSとOだ。先ほど発見されたPに対応するSやOを探し、Pと異なる色で線を引いていく。そして、Pの対応番号を振っていく(表3の1、2、3、4)。

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※4については、該当するPがないため、SOAPとは別に、箇条書きで記録しておく。(SOAPは作らない)

これで素材が揃ったので、番号ごと(クラスターごと)に、SOAPに落とし込んでいく。まずPを記載する。その後、SかOの区別をつけそれぞれ記載する。最後がAだ。S、 O、Pを眺め、なぜこの指導をしたのか、というAを考えて記載する。Aは薬剤師が服薬指導の際に評価した内容であり、発言としては登場しないため、この練習ではシナリオから推測し、記載する必要がある、という訳だ。このシナリオでは3種類のSOAPを含む薬歴が出来上がった(表4)。これが「PからはじまるSOAP」である。

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なお、この例では、他科の受診や他剤併用といった要素が抜けている。しかし、とりあえずのアセスメントは実施できる。実臨床でも、こうした情報不足の中でのSOAPを作成することが求められるという訳だ。また、原則的には初回の服薬指導は、SOAPの形式では記録しない。しかし、「Pから始まるSOAP」の場合、「初回の服薬指導」あるいは「初回のため、用法・用量や副作用に関する注意事項などの説明が必要」というアセスメントで、SOAPを構成することもできる。そのため、本セミナーのワークでは、SOAPを構成する練習として、初回服薬指導のケースも含められた。実務においては、アセスメントしていない場合は、SOAPで書かずに箇条書きで問題ないとのことだ。講義中、服薬ケア研究会会頭 岡村祐聡氏は、「この練習の上では、練習者自身の意見ではなく、“シナリオの中の薬剤師”がどう考えたのかを推察する必 要がある」、と加えた。

プロブレムは一つに絞る、そしてSOAPに混在させない

今回紹介されたモデルケースでは、表4に示すとおり、SOAPが3つ出来上がった。ただし、一人の患者に対しSOAPをいくつも作成する余裕などない、という薬局は多いだろう。一方で、指導内容が複数に渡るのにも関わらず薬歴にSOAPが一つしか記載されていないという場合、複数の指導内容が混在していることになる。それはそれでSOAPとして正しくない。服薬指導のテーマ(プロブレム)は絞った方が良さそうだ。
続けて、岡村氏は、SOAPにプロブレムが混在することへの危険性についても説明した。SOAPにプロブレムを混ぜると、アセスメントがぼやけてしまい、はっきりと分からなくなる。また、指導内容が、煩雑かつ薄っぺらなものになり質が低下する。本誌前号に掲載した「薬歴の達人」では、プロブレムをできる限り一つに絞る、という内容を紹介した際、患者が覚えきれないことを理由としたが、こうなると患者の満足度も低下する。
さらには、薬歴を後日振り返る時にも弊害を及ぼす。アセスメントが定まらない記録は、読んだ時に本質を掴みにくく時間もかかる。混在したSOAPでは「プロブレ ムネーム」もつけられず、読む際に非効率な薬歴になってしまう、とのことだ。

本来は、POSの思考で薬歴を作成する

今回は、実臨床でしばしば起きうる、情報が不十分な状況下でとりあえず実施した指導内容から、逆向きにSまたはOや、Aを掲載していくための方法論が紹介された。しかし、本来、一番重要で根幹となるのはAである、と岡村氏は説く。この考え方が、POS(Problem Oriented System)である。「POSとは、患者さんを前にしたときにプロブレムに着目しながら、どんな指導をすべきか考える思考方法」と説明した後、岡村氏は「SOAPは薬歴の書き方の決まりではありません。プロブレムに着目して、アセスメントを育てるための思考ツールです」と加えた。プロブレムがどのようなものなのか、SOAPで考えながら明らかにしていくことが重要であり、そのアセスメントが成り立つためには、どんな情報が必要不可欠なのか、SOAPのバランスで見極めていく必要がある。