NPO法人肺がんの患者の会ワンステップと日本イーライリリー株式会社は、11月13日に共同でセミナーを開催。医療者と患者とのコミュニケーションをテーマに、医師と薬剤師、患者団体がそれぞれの立場で講演、議論した。当記事では、近畿大学病院がんセンター特任教授の中川和彦氏が講演した、肺癌の初回治療選択時の説明の実態と患者と医師の認識調査の結果を紹介する。


癌の初回治療選択時の説明に対する認識調査

 癌の治療では、医師と患者の双方で話し合い、有効な治療選択肢の中からまずひとつを決定し実施していく。非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer;NSCLC)にもいくつもの有効な治療選択肢がある。進行・再発NSCLCの初回治療選択時の説明の実態や、患者と医師の認識について、医師と患者それぞれに対し調査が実施された。

 対象は、進行・再発NSCLCを担当し、呼吸器外科、呼吸器内科、腫瘍内科、化学療法科のいずれかに所属している医師と、進行・再発NSCLCで薬物療法の経験がある(実施中を含む)患者とされた。

患者は能動的、医師は患者が受け身という認識のズレ

 医師から治療選択肢を説明される際に患者はそれについてどのように感じ、考えているのか。本調査の結果、その認識について医師と患者では統計学的な隔たりが見られた(表)

 患者は自分自身で能動的に治療決定に関わりたいと考える一方、医師は、患者は受け身の姿勢である、という認識があることが浮き彫りになった結果だ。

 ほかにも「仮に5つの治療選択肢があったら、いくつ説明してほしいですか(対象:患者)、いくつ説明しますか(対象:医師)」という設問に対し、「5つ全ての治療選択肢」と回答した割合は、患者で80.8%、医師で25.8%と大きなギャップがあった。医師が患者に治療選択肢を説明する際に一つに限定する場合、その理由として、「医学的観点で患者に最も適していると判断したから」、「患者は説明をされても理解が難しいから」、「患者が医師に任せることを希望するから」、「患者の価値観に最も合っていると判断したから」、といった回答が医師から多数得られたという。

患者と医師の認識のギャップはなぜ生まれるのか

 患者のニーズと、それに対する医師の認識のこのギャップの背景について、近畿大学病院がんセンターの中川和彦氏は、本調査の対象患者は回答時点で二次治療以降の人が半数近くを占めていたのに対し、医師は癌治療を初めて経験する患者を主に想定していた、と説明。「診断されたばかりの患者さんは、癌の状況や治療を説明されてもすぐに理解することは難しく、近畿大学病院の実臨床でも、初期に治療を説明しても患者さんからは全く質問されないこともよく経験しています」と補足する。アンケート調査結果と合わせると、つまり、患者は癌の治療経験を通じて、やがて能動的な姿勢に変化するというわけだ。

 このコミュニケーションの厳然たる溝を埋めるにはどうすればいいのか。中川氏は、「患者さんは、医師にもっと説明してほしい、理解を深めたい、自分も関わりたいと考えていることが示されました。一方で、医師は、患者さんへの様々な配慮ゆえに、情報量を調整している可能性が示唆されました。どちらが悪いわけではなく双方に努力する必要があります」として、患者が後悔せずにより納得して治療に臨めるようにするためには、共同意思決定(shared decision making;SDM)を推進していく必要がある、と考察した。