
予防接種を取り巻く環境は、近年、相次ぐ新規ワクチンの承認や適応拡大に加え、定期接種で使用するワクチンの変更や接種対象の拡大など、制度面でも大きく動いている。本稿では、こうした2026年の主な動きを整理し、薬剤師が日常業務で押さえておきたいポイントを考える。
※2026年8月28日時点の情報をもとに作成。今後、検討状況等により変更される可能性があるため、最新情報をご確認ください。
2026年度時点の定期接種ワクチンを整理
予防接種法に基づく定期接種は、対象となる疾病や年齢、使用するワクチンなどが制度として定められている。定期接種は公費負担(全額または一部助成)のもとで実施され、「A類疾病」と「B類疾病」に区分される。2026年度の制度を踏まえ、近年変更されたものや新たに導入されたワクチンを中心に、定期接種ワクチンを表に示す。
近年承認・適応拡大された注目のワクチン
ここ数年で国内承認や適応拡大を取得したワクチンは、成人領域を中心に臨床上の選択肢を大きく広げている。特に「RSウイルス」「肺炎球菌」「MMRワクチン(麻しん・おたふくかぜ・風しん)」「高用量インフルエンザ」で注目される製品を取り上げ、対象者や特徴、定期接種との関係を確認する。
RSウイルスワクチン
RSウイルスは小児の呼吸器感染症の原因として知られてきたが、高齢者や慢性疾患を有する成人でも重症化することが知られている。近年、成人を対象としたワクチンの承認・適応拡大に加え、妊婦への接種によって出生後の乳児のRSウイルス感染を予防する母子免疫の選択肢も加わった。
2026年4月1日からは、妊娠28週0日~36週6日の妊婦を対象とした定期接種(A類)に導入され、接種費用は原則公費負担となった。一方、60歳以上の高齢者および重症化リスクを有する18~59歳の成人への接種は、いずれも現時点では任意接種である。
アレックスビー筋注用(組換えRSウイルスワクチン)
●承認・特徴:2023年9月に60歳以上の成人を対象として承認され、2024年1月に発売。その後、RSウイルス感染症の重症化リスクを有する成人へ適応が拡大。現在では、60歳以上および重症化リスクを有する18~59歳の成人が対象となっている。重症化リスクとして、慢性肺疾患、慢性心血管疾患、糖尿病、慢性腎・肝疾患、神経・神経筋疾患、肥満、免疫不全などが挙げられる。
なお、妊婦への接種による母子免疫の適応はない。
アブリスボ筋注用(組換えRSウイルスワクチン)
●承認・特徴:2024年1月に承認され、60歳以上の成人におけるRSウイルス感染症の予防に加え、妊婦への接種による母子免疫にも用いられる。妊婦への接種により、母体で誘導された中和抗体が胎盤を介して胎児へ移行し、出生後の乳児におけるRSウイルス感染症による下気道感染症の予防が期待される。
なお、承認上の接種対象は妊娠24~36週である一方、定期接種の対象は妊娠28週0日~36週6日であり、両者の対象期間が異なる点に留意する。
【ちょっとMEMO】 ワクチン以外のRSV予防の選択肢
新生児・乳児のRSV感染症の予防では、母体へのワクチン接種による母子免疫に加え、抗RSVモノクローナル抗体による予防も選択肢となっている。ベイフォータス(ニルセビマブ)に加え、2026年8月にはエヌフロンシア(クレスロビマブ)が承認・発売された。
肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)
成人に用いられる肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)では、20価および21価の製品が承認されている。結合型ワクチンは、T細胞を介した免疫応答を誘導し、免疫記憶の形成が期待される。
成人の肺炎球菌予防は、2026年度より定期接種で用いるワクチンが23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)から、沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)に変更となった。
プレベナー20水性懸濁注(沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(無毒性変異ジフテリア毒素結合体))
●承認・特徴:2024年承認取得、同年8月に発売。2026年度から高齢者定期接種(B類)の使用ワクチンとなった。成人の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の原因となる主要な20種類の血清型をカバーする。
キャップバックス筋注シリンジ(21価肺炎球菌結合型ワクチン(無毒性変異ジフテリア毒素結合体))
●承認・特徴:2025年8月に承認取得、同年10月に発売。成人のIPDの原因となる血清型を幅広くカバーすることを目的に設計された21価PCVで、プレベナー20とは収載血清型が一部異なる。
2026年8月時点では定期接種の対象ではない。
MMRワクチン(麻疹・ムンプス・風疹混合ワクチン)
ミムリット皮下注用(乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチン)
●承認・特徴:2026年5月承認取得。ムンプスワクチン株に関連した無菌性髄膜炎の発生を背景に1993年に中止されて以来、国内で約33年ぶりとなるMMR(麻しん・風しん・おたふくかぜ)3種混合生ワクチン。
ミムリットは、無菌性髄膜炎の発現頻度が低いムンプスウイルス株として、海外で広く使用されているRIT4385株を採用している。生後12か月以上を対象とし、小児の接種負担軽減に加え、成人を含め幅広い年齢層で麻しん・風しん・おたふくかぜ予防の選択肢として期待される。
高用量インフルエンザワクチン
エフルエルダ筋注(高用量インフルエンザHAワクチン)
●承認・特徴:2024年12月承認取得。60歳以上の高齢者を対象とし、従来の標準用量ワクチンの4倍量の抗原を含有する高用量インフルエンザワクチン。高齢者は、加齢に伴う免疫機能低下(免疫老化:immunosenescence)により、標準用量ワクチンでは十分な免疫応答が得られにくいことが知られている。高用量インフルエンザワクチンは、高齢者におけるインフルエンザ発症予防効果の向上や重症化・入院リスクの低減も報告されており、2026年6月には日本感染症学会が高齢者への高用量インフルエンザワクチン接種を推奨する提言を公表している。
【ちょっとMEMO】 2026/27シーズンの定期接種への導入見送り
2026年秋冬シーズンから高齢者の定期接種への導入が予定されていた「エフルエルダ」は、国内製造委託先での製造体制構築に時間を要し、発売が延期された。これに伴い、2026年度の高齢者定期接種への導入は見送られた。今後の発売時期や定期接種への導入時期は、最新情報の確認が必要である。
制度化・接種対象拡大・普及に向けた動向
定期接種制度は、ワクチンの有効性・安全性だけでなく、疾病負荷、費用対効果、安定供給、接種体制などを踏まえて見直しが行われる。2026年度はおたふくかぜワクチンの定期接種化や男性へのHPVワクチン接種など、今後の制度変更につながる議論が進んでおり、概要や課題等をまとめる。
● おたふくかぜワクチンの定期接種化に向けた議論
小児に広くみられるおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)は、罹患により無菌性髄膜炎や脳炎、不可逆的な難聴といった重大な合併症を引き起こす可能性があるため、日本小児科学会をはじめとする関連学会から定期接種化が要望されてきた。
現在、おたふくかぜに対しては、任意接種ですでに用いられている単味の乾燥弱毒生おたふくかぜワクチン2種類(第一三共、タケダ)と2026年5月に製造販売承認を取得したMMRワクチン(ミムリット皮下注用)の計3製剤がある。
2027年度定期接種化に向けて検討が進められており、2026年7月22日に開催された厚生科学審議会(ワクチン評価に関する小委員会)では、現行のMRワクチンと同様の接種時期による2回接種を基本とする方向が示された。
(案)接種年齢
第1期:生後12か月から24かみに至るまでの間にある者
第2期:小学校就学の始期に達する日の1年前の日から当該始期に達する日の前日までにある者(小学校就学前の1年間)
※定期接種の開始時点で第1期接種に間に合わない児には、キャッチアップ接種を実施
キャッチアップ接種対象:第1期接種の機会を逃し、今までに一度もおたふくかぜワクチンを接種したことのない、第2期接種前の者(使用ワクチン:MMRワクチン、単味おたふくかぜワクチン)
【ちょっとMEMO】日本小児科学会からの要望および懸念点
日本小児科学会は2026年6月に「おたふくかぜ含有ワクチンの早期定期接種化および既承認ワクチンの活用に関する要望書」を提出した。当要望書において、MMRワクチン(ミムリット)の承認を歓迎しつつも、定期接種に用いるワクチンをMMRワクチンに限定した場合、過去にMRワクチンや単味おたふくかぜワクチンで経験した出荷停止や供給不足に陥るリスクを強く懸念し、定期接種においては必要時に複数の手段を確保しておくことが極めて重要としている。
また、単味おたふくかぜワクチンは、安全性に関する知見も蓄積されている等といった見解を示し、既存の単味おたふくかぜワクチンおよびMRワクチンの併用も認める柔軟な制度設計を求めている。
● 男性へのHPVワクチン接種の定期接種化の検討
ヒトパピローマウイルス(HPV)は子宮頸がんの原因として広く知られているが、男性においても尖圭コンジローマや肛門がんなどの一因とされる。
日本では2020年に4価HPVワクチン(ガーダシル)、2025年には9価HPVワクチン(シルガード9)について、肛門がん及びその前駆病変と男性に対する尖圭コンジローマの予防にも適応が拡大し、現在は9歳以上を対象に任意接種が可能となっている。
HPVワクチンの接種は、中咽頭がんや肛門管がん、陰茎がんといった男性に多いHPV関連がんの予防にも期待が寄せられている。さらに、男性への接種は本人の疾病予防だけでなく、性的パートナー間でのHPV感染伝播の抑制にもつながる可能性があるという。
海外ではアメリカ、イギリス、カナダなどで男性を対象とした定期接種が導入されており、日本でも専門学会や患者団体を中心に男性への定期接種化を求める提言が行われている。
2026年7月のワクチン評価に関する小委員会では、男性へのHPVワクチン定期接種化について継続審議となった。委員からは、男性におけるHPV関連疾患の発生状況やワクチン接種の有効性、費用対効果、対象年齢、女性への接種との関係などについて、さらなる検討が必要との意見が示された。また、定期接種化に伴う財政的影響や接種体制、国民への情報提供の在り方についても整理が求められており、これらの課題を踏まえて引き続き検討が進められている。
● 定期接種化2年目、帯状疱疹ワクチンの接種支援
2025年4月から高齢者を対象(原則65歳※)とし、B類定期接種に導入された帯状疱疹ワクチンは、2026年度で制度開始2年目を迎えた。今後は、対象者への情報提供に加え、接種歴や接種回数、自己負担額などを踏まえた接種支援が重要となる。
帯状疱疹ワクチンは、生ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」)と組換えワクチン(シングリックス)の2種類。生ワクチンの接種回数は1回、組換えワクチンは2回接種が必要となる。組換えワクチンは接種回数が多い一方で、生ワクチンと比べて発症予防効果や効果の持続性が高いとされる。こうした特徴を踏まえ、患者ごとの接種歴や希望、健康状態などに応じた情報提供が求められる。
※2025年度から2029年度までの5年間の経過措置として、その年度内に70、75、80、85、90、95、100歳となる方なども対象
日本感染症学会等の各種提言
ワクチン接種をめぐる薬剤師の視点
近年、ワクチンをめぐる制度変更や新規承認・適応拡大など、さまざまな動きがみられる。日本感染症学会からは、高齢者やハイリスク患者における各種ワクチンの接種に関する提言が出されており、インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹、RSウイルス、COVID-19などが取り上げられている。
薬剤師には日常の薬物療法支援の延長線上で患者の感染症予防にも目を向けることが求められる。特に、慢性疾患を有する患者では感染症による重症化や原疾患の悪化リスクが高いため、服薬指導の機会等を通じてワクチン接種歴を確認し、必要に応じて患者ごとのリスクに応じた情報提供や受診勧奨につなげることが考えられる。
