
監修
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長
髙島 淳生 氏
大腸がんの薬物療法においては、殺細胞性抗がん薬のみならず、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬など、使用可能な薬剤が増加しています。また、治療の継続にあたっては、特徴的な副作用のマネジメントにおける薬剤師の貢献も不可欠です。2026 年7 月には「大腸癌治療ガイドライン 医師用」が改訂されました。今回、切除不能進行・再発大腸がんに対する薬物療法の最新動向について、国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長の髙島淳生氏にご解説いただきました。
使用可能な薬剤が増加し
副作用マネジメントが肝要に
大腸がん薬物療法のあゆみを振り返ると、殺細胞性抗がん薬のフルオロウラシル(5-FU)が主体であった時代から、イリノテカンやオキサリプラチン、その後はさらに分子標的治療薬として血管新生阻害薬や抗EGFR抗体薬が使用可能となり、治療の選択肢が広がりました。さらに近年は、小分子薬や免疫チェックポイント阻害薬なども登場し、標準治療として使用される薬剤の数が著しく増加しています(表1)。
切除不能進行・再発大腸がんに対する薬物療法では、がんの進行を遅らせ、延命や症状のコントロールを目標としますが、薬物療法の奏効によって原発巣や転移巣を切除するconversion手術が可能となる患者も、少数ではありますが見受けられます。
使用可能な薬剤が増えた一方、治療の継続においてはそれぞれの薬剤に特徴的な副作用のマネジメントも不可欠であり、薬剤師外来での対応や支持療法の提案、副作用マネジメントの指導における薬剤師によるサポートの重要性も高まっています。
薬物療法の適応可否、バイオマーカー、
腫瘍占居部位から一次治療を検討
切除不能進行・再発大腸がんの一次治療の決定にあたっては、まず、薬物療法の適応可否を判断します。全身状態、主要臟器機能、併存疾患などから、適応となる(Fit)、問題がある(Vulnerable:Vul)、適応とならない(Frail)かを判断します。一次治療でのオキサリプラチンやイリノテカンの使用や、分子標的治療薬の併用に対して忍容性に問題がないと判断されればFit、問題があると判断されればVulとなります。
また、近年は切除不能進行・再発大腸がんにおいても、遺伝子変異などのバイオマーカーの情報が重要であり、FitまたはVulでは、一次治療開始前に、MSI/MMR-IHC検査、BRAF V600E遺伝子検査、RAS(KRAS/NRAS)遺伝子検査を行います。なお、HER2検査も同じタイミングで行うことで、検査の実施忘れを回避することが可能です。RAS/BRAF野生型では、腫瘍占居部位が左側か右側かも評価します(表2)。
免疫チェックポイント阻害薬の適応拡大
他のがんで活躍している免疫チェックポイント阻害薬ですが、大腸がんの治療としても適応が認められています。バイオマーカーとしては、MSI-H/dMMR(高頻度マイクロサテライト不安定性/DNAミスマッチ修復機能欠損)です。MSI-H/dMMRに該当するのは、切除不能の大腸がんのうち約4%と頻度が少ないものの、一次治療で免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ+イピリムマブ:推奨度1、ペムブロリズマブ:推奨度2)が考慮されます(表2)。
免疫チェックポイント阻害薬の2剤併用療法では、免疫関連有害事象(irAE)の頻度や重篤度が高くなりやすい傾向にあり、高齢者や全身状態不良例、自己免疫疾患や間質性肺炎を呈している患者などでは慎重な適応判断が必要と考えます。
オキサリプラチンやイリノテカン
併用レジメンに分子標的薬を併用
薬物療法のアルゴリズムでは、Fitの一次治療や二次治療では、オキサリプラチンやイリノテカンと5-FUやフッ化ピリミジンを併用した2剤併用療法に分子標的薬を併用します(表3)。
基本的な考え方として、一次治療と二次治療のベースが異なるように治療を組んでいきます。つまり、一次治療でオキサリプラチンベースの併用療法を選択した場合は二次治療でイリノテカンベースの併用療法、一次治療でイリノテカンベースの併用療法を選択した場合は二次治療でオキサリプラチンベースの併用療法、という具合です。
全身状態の評価がVulの場合、5-FU+l-LVや経口フッ化ピリミジン(カペシタビン、UFT+LV、S-1)にベバシズマブを併用するか、抗EGFR抗体薬(セツキシマブまたはパニツムマブ)単剤が考慮されます。
● BRAF変異型
BRAFV600E遺伝子変異(頻度は約5%)があれば、BRAF阻害薬エンコラフェニブと抗EGFR抗体薬セツキシマブの併用が考慮されます(表2)。全身状態の評価がFitの場合はFOLFOX+エンコラフェニブ+セツキシマブ、Vulでは、FOLFOXからオキサリプラチンを除く必要があるとして、エンコラフェニブ+セツキシマブ+sLV5FU2(5-FU+l-LV)が考慮されます。なお、BRAF阻害薬のエンコラフェニブでは、視覚障害など眼の有害事象が現れることがあり、注意が必要です。
● RAS変異型
RAS変異型では、Fitでは2剤併用療法(FOLFOX、CAPOX、SOX、FOLFIRI、S-1+イリノテカン)または3剤併用療法(FOLFOXIRI)に分子標的治療薬としてベバシズマブの併用、Vulではフッ化ピリミジン+ベバシズマブを考慮します(表2、表3)。
● RAS/BRAF野生型
RAS/BRAF野生型は、全身状態の評価以外にも、腫瘍占居部位が左右いずれかによって、治療選択が異なります。RAS/BRAF野生型のFitでは、腫瘍占居部位が左側であればFOLFOXまたはFOLFIRIに抗EGFR抗体薬(セツキシマブまたはパニツムマブ)の併用、腫瘍占居部位が右側であれば、2剤併用療法または3剤併用療法にベバシズマブの併用を考慮します(表2、表3)。全身状態がVulの場合、フッ化ピリミジン+ベバシズマブ、腫瘍占居部位が左側ではそのほかに抗EGFR抗体薬単剤も考慮されます。
二次治療以降では
バイオマーカーによる治療選択も
切除不能進行・再発大腸がんでの頻度は高くないものの、バイオマーカーの検査結果によっては、二次治療以降でそれらに対応した治療も実施されます。HER2陽性例について、一次治療ではオキサリプラチンやイリノテカンと5-FUやフッ化ピリミジンを併用した2剤併用療法の中で最適と考えられるものが選択されますが、二次治療以降においては、HER2陽性例では抗HER2抗体のペルツズマブ+トラスツズマブ、または抗体薬物複合体のトラスツズマブ デルクステカン、KRASG12C遺伝子変異型ではソトラシブ+パニツムマブ、TMB-Hではペムブロリズマブが記載されています。
また、NTRK融合遺伝子陽性ではNTRK阻害薬のエヌトレクチニブやラロトレクチニブ、RET融合遺伝子陽性ではRET阻害薬のセルペルカチニブ、ALK融合遺伝子陽性ではALK阻害薬のアレクチニブが使用可能です(表4)。
後方治療の選択肢が増加
今回のガイドラインでは、三次治療以降の後方治療に関し、第Ⅲ相試験の新規エビデンスをもとにしたクリニカルクエスチョンが改訂されています。
後方治療としては、トリフルリジン/チピラシル(FTD/TPI)、レゴラフェニブ、フルキンチニブなどの選択肢があります。この中で、FTD/TPI単剤へのベバシズマブ併用で生存期間の延長効果が示されたため、オキサリプラチンやイリノテカンに不応・不耐例に対し、FTD/TPIとベバシズマブの併用療法が最も多く使用されている印象です。
ただし、後方治療の選択肢を直接的に比較した臨床試験はなく、後方治療での投与順などについての具体的なエビデンスはありません。高血圧、尿蛋白などにより血管新生阻害薬の使用が困難な場合には、FTD/TPI単剤を選択することもあります。なお、レゴラフェニブやフルキンチニブでも、手足症候群、高血圧、蛋白尿などが発現することがあります。
オキサリプラチンでは末梢神経障害
イリノテカンでは下痢予防のマネジメント
オキサリプラチン併用レジメンで注意すべき副作用は、オキサリプラチンによるしびれなどの感覚性末梢神経障害です(表5)。末梢神経障害は蓄積毒性のため対処法が限られます。累積投与量が一定程度に達したらオキサリプラチンの投与を休止します。特に高齢の患者では、感覚機能の低下、あるいは副作用に言及することで治療が継続できなくなるという怖れや思い込みから、つらい症状を我慢していることもあります。来院時にすでに歩行困難をきたしていたケースも経験しています。
医師の診察中は、医療安全の観点から医師の判断の根拠なども電子カルテに入力する必要があり、患者の日常の様子を伺う時間がほとんどありません。そのため、外来化学療法での点滴中に患者から聞き取れた日常生活の様子やご家族から伺った話についての薬剤師からの情報共有、「そろそろ(投与量が増えてきたので)オキサリプラチンの休止を検討してはどうか」といった医師への提案なども非常に役立ちます。
イリノテカンの主な副作用としては下痢が挙げられますが、実は、制吐薬の影響により便秘をきたすこともあります(表5)。イリノテカンは肝代謝を経て便中に排泄されますが、便秘で腸管内に停留すると、腸内細菌が代謝したSN-38が粘膜を傷害し、激しい下痢が生じます。
便秘を回避するには便をやわらかめに保つことが重要で、当院ではイリノテカン投与後の数日間の排便コントロールを薬剤師が指導しています。薬物療法の開始前には、緩下剤、下痢止め、整腸剤、解熱剤など、治療中のお守りセットともいえるような薬を処方し、副作用発現時のセルフケアも指導しています。
血管新生阻害薬では血圧や蛋白尿、
抗EGFR抗体薬では皮膚障害に注意
ベバシズマブ、ラムシルマプ、アフリベルセプト ベータなどの血管新生阻害薬の主な副作用は、血圧の上昇や蛋白尿です。尿蛋白は医療機関でモニタリングを行いますが、血圧管理については患者への指導が必要です。現在は家庭用血圧計も比較的安価に入手できるため、同じ時間帯に同じ姿勢で自宅での血圧測定を実施するよう促します。
セツキシマブやパニツムマブなどの抗EGFR抗体薬の主な副作用は皮膚障害で、ざ瘡様皮疹や爪囲炎などが発現します。患部の清潔を保ち、適切な保湿を行うなどの、予防的スキンケアも重要です。皮疹が発現した場合にはステロイド外用薬を使用します。また、爪のケアの方法などについては看護師による指導も行っています(表5)。
後治療の機会を得るためにも
適切なタイミングでCT検査を
切除不能進行・再発大腸がんの薬物療法において、当初はかなり苦慮していた副作用のマネジメントも、以前と比較すると現場での対応力が向上しています。また、後方ラインにおける治療選択肢が増えてきたことから、増悪したと判断された時点で、次の治療へのすみやかな移行も考慮されています。患者の体調悪化により後方治療の機会を逸しないためには、増悪を判断するCT検査を適切な時期に実施することも重要です。
支持療法でも信頼のおける薬剤師
薬局での聞き取りから副作用の発見も
薬物療法が入院から外来へ移行するにつれ、院外で過ごす期間における副作用マネジメントの重要性も増しています。重篤な副作用や緊急入院、死亡リスクを避けるため、どのような症状が発現した場合に早急に医療機関に連絡すべきか、また特に経口薬は飲みすぎないように患者に指導していますが、経口薬での治療の継続にあたっては、薬剤師からの服薬指導も大きく影響するといえます。
当院では薬剤師外来が設置されており、医師の診察前に薬剤師による面談で副作用の評価をしています。また、支持療法に関する医師への提案などもあり、薬剤師の知識や経験も信頼して治療を行っています。
また、医師が処方した経口抗がん剤や制吐剤などは、保険薬局で患者に提供されます。当院での採血データなどの情報は薬局に送付し、薬局の薬剤師が患者とのやりとりで気づいた内容はFAXやメールなどで受信します。電子カルテを扱う医療機関では薬局からの情報も電子カルテに反映されるシステムが構築されていますので、薬局からの情報で初めて患者が副作用に苦しまれていたことに気がついたケースもあります。
患者の大切な時間に寄り添う
専門知識が活かせる環境構築も課題
切除不能進行・再発大腸がんの薬物療法は薬剤の数も多く、知識のアップデートも常に必要です。治癒ではなく延命や症状コントロールが主体となりますが、そのような人生のタイミングで患者の貴重な時間をより豊かにするサポートができるという点で、薬剤師も含め、医療従事者がやりがいを感じる場面はあるのではないかと感じています。
また、当院はがん専門施設であるため薬剤師数が多いと思われがちですが、新規入院患者の持参薬の種類や量をすべて確認するなど、細かなタスクにも時間を割かれています。今後は、薬剤師の専門知識が活かせるような業務に集中できるよう、他の職種へのタスクシフト、ロボットによる調剤や投薬、IT技術を活用した残薬チェック、副作用情報に関する電子カルテ上での警報システムなど、さまざまなテクノロジーの活用によって、よりよい業務環境が構築されていく可能性があると考えています。
【TOPIC】チーム医療を推進するJ-TOP
米国テキサス州のMDアンダーソンがんセンターでは、薬に関する知識が豊富な薬剤師、ケアが得意な看護師の特性など、それぞれの職種の専門性を医師が統合する形式でチーム医療が推進されています。2002年当時にMDアンダーソンがんセンターの教授であった上野直人氏により、がん治療におけるチーム医療の発展を目的とした共同プログラムとしてJ-TOP(Japan Team Oncology Program)が創設されました。
医師、薬剤師、看護師など150名を超える多職種の参加者が意見を交わす場が醸成されており、薬剤師ががん薬物療法において積極的に関与するうえでも、コミュニケーションやリーダーシップを学ぶひとつの機会として活用することができます。
【COLUMN】がん治療と医療費
今から10年前の2016年、書籍『医学の勝利が国家を滅ぼす』(新潮新書)のなかで著者の里見清一氏は、がん治療における薬剤費の高騰や、そのコストは誰が負担することになるのか、という重要な問いを投げかけています。日本では高額療養費制度などにより患者の自己負担額が一定の範囲に抑えられていることもあり、背後にある医療経済の課題が日常診療で意識されることはあまりありません。
著者の里見氏は国立がんセンター(現:国立がん研究センター)中央病院での勤務経験もあり、2015年の第56回日本肺癌学会学術集会のシンポジウム「肺癌新治療の費用対効果」においても医療経済の課題を指摘しています。日本では2014年にがん治療において免疫チェックポイント阻害薬が初めて承認され、その後も新薬が登場していますが、財政上の負担を次世代に残さないためにも、医療費という難渋するテーマに真摯に向き合っていくことの重要性も増しているのではないでしょうか。
【参考文献】
1)大腸癌研究会編.「大腸癌治療ガイドライン 医師用 2026年版」.金原出版,2026.
2)伊豆津宏二 ほか編.「今日の治療薬(2026年版)」.南江堂,2026.





