【監修】椛島 健治 氏
 京都大学大学院医学研究科・医学部 皮膚科学講座 教授

近年、アトピー性皮膚炎は薬剤の開発で盛り上がっています。長らくステロイドやタクロリムスの外用が治療の中心でしたが、2018年に、約10年ぶりのアトピー性皮膚炎の新薬として抗体医薬のデュピルマブが登場しました。2020年には、約20年ぶりの外用薬の新薬、デルゴシチニブが発売され、その活躍に期待が寄せられています。さらに新規の経口薬も続々開発されてきています。デルゴシチニブを開発された、京都大学大学院医学研究科・医学部皮膚科学講座教授の椛島健治氏にお話を伺いました。

薬物療法で速やかに症状を寛解させる

日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018(以下、ガイドライン)では、アトピー性皮膚炎の治療目標は「症状がないか、あっても軽微で日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、その状態を維持すること」とされています。

残念ながらアトピー性皮膚炎を根治する薬剤はありませんが、適切な薬物療法で皮疹が安定した状態が維持できれば、寛解も期待できます。そのために、まずは速やかに症状を寛解状態へ導くことが重要です。アトピー性皮膚炎を寛解させる薬剤としては、ステロイド外用薬またはタクロリムス軟膏が推奨されています。

ステロイド外用薬

ステロイド外用薬は、製剤ごとのランク(表1)を把握し、皮疹の重症度に応じた適切なランクの薬剤を選択することが重要です。たとえば、ステロイド外用薬の吸収率は、前腕伸側を1とした場合、頬は13.0、頭部は3.5、頸部は6.0、陰囊は42に値します。こうした吸収率が高い部位では、局所の副作用に注意して、長期間の連用を避ける、顔は原則ミディアムクラス以下を使用する、といったランク選択が必要です。

また、剤型を使い分けることも重要です。乾燥状態がベースにあるアトピー性皮膚炎では、ステロイドの剤形は軟膏が基本です。ただし、夏場には使用感を優先してクリームやローション、頭の病変にはローション、赤く盛り上がる痒疹や肥厚した苔癬化皮疹にはテープといった具合に、季節や部位により剤形を変更することが効果的な場面もあります。

タクロリムス軟膏

タクロリムス軟膏は、細胞内のカルシニューリンを阻害する薬剤であり、ステロイドとは異なった作用機序で炎症を抑制します。

タクロリムス軟膏の薬効は、薬剤の吸収度に依存するため、塗布部位やバリアの状態によって大きく影響を受けます。特に、顔面・頸部の皮疹に対して高い適応があります。また、副作用の懸念などからステロイド外用薬では治療が困難であったアトピー性皮膚炎の皮疹に対しても高い有効性を期待できます。

一方で、びらん、潰瘍がある箇所には使用できません。また、タクロリムス軟膏には、16歳以上に使用可能な0.1%軟膏と2~15歳の小児用の0.03%軟膏がありますが、2歳未満の小児には安全性が確立していないため使用できません。授乳中の婦人にも使用しません。

アトピー性皮膚炎の内服薬あくまで補助療法の位置づけ

アトピー性皮膚炎の治療は外用薬が中心ですが、以下の内服薬(表2)も投与されています。

抗ヒスタミン薬

アトピー性皮膚炎は、数ある皮膚疾患の中でもかゆみが強いと言われています。QOLの低下、搔破行動による症状悪化、皮膚感染症や眼症状など合併症の誘因にもなり得ますので、かゆみのコントロールは重要です。

抗ヒスタミン薬は、アトピー性皮膚炎のそう痒に対して実臨床で多用されています。ただし、抗ヒスタミン薬は、抗炎症外用薬と保湿薬による外用療法に加える補助療法という位置づけになります。また、抗ヒスタミン薬のそう痒抑制効果は、アトピー性皮膚炎の重症度や病像などにより異なりますので、投与の開始後はそう痒に対する有効性をきちんと評価すべきです。

シクロスポリン

アトピー性皮膚炎におけるシクロスポリンの対象は「16歳以上で既存治療では十分な効果が得られない最重症患者」です。顔面の難治性紅斑や紅皮症などにも有効で、投与後すぐにかゆみが軽快するため、痒疹結節が多発し搔破の著しい患者さんのQOLの改善にも有用とされています。

ステロイド内服薬

アトピー性皮膚炎の急性増悪や重症・最重症の寛解導入に時に用いられることがありますが、全身性副作用の可能性を鑑みると一般的にはあまり推奨されません。

重症のアトピー性皮膚炎にはデュピルマブの投与を考慮

2018年に登場した注射剤のデュピルマブ(デュピクセント®皮下注300mgシリンジ、デュピクセント®皮下注300mgペン)は、アトピー性皮膚炎の約10年ぶりの新薬で、アトピー性皮膚炎の治療薬としては初めての生物学的製剤です(表3)。

デュピルマブは、重症のアトピー性皮膚炎には非常に有効な治療薬です。私が診療を行う京都大学医学部附属病院では重症の患者さんを多く診療していますので、デュピルマブを投与している患者さんが多数おられます。一方で、デュピルマブは薬価の高さは否めません。3割負担では、最初の月に2回投与したとすると、最初の月が6万円程度、その後は4万円程度が毎月かかることになります。すべての重症の患者さんに使用できる薬剤ではありません。

デルゴシチニブの開発世界初の外用のJAK阻害薬

2020年6月に発売されたデルゴシチニブ(コレクチム®軟膏)は、私を中心とした京都大学大学院医学研究科皮膚科学チームと、日本たばこ産業株式会社(JT)とで共同開発しました。JAK阻害薬の外用薬としては世界初になります。

アトピー性皮膚炎の病態には、①炎症、②バリア機能の破壊、③かゆみ、という3つの要素があります。長年アトピー性皮膚炎の治療の中心となっているステロイド外用薬は、炎症にはとても効果的ですが、バリア機能は修復せずむしろ悪くする方向に働きます。かゆみを抑制する効果も期待できません。バリア機能を保持するために保湿外用薬が推奨されていますが、これも根本的にバリア機能を内側から作り上げているというわけではなく、油分の膜を物理的に被せているだけとも言えます。

そこで、私は、バリア機能を修復し炎症も抑える作用について、10年ほど前から検討を始めました。アトピー性皮膚炎の炎症は、IL-4、IL-5、IL-13、IL-22、IL-31などのサイトカインが関係していることが分かっていました。サイトカインは、細胞内でヤヌスキナーゼ(Januskinase:JAK)Statシグナルを通して働きます。そのシグナルをブロックするのがJAK阻害薬で、関節リウマチなど他の炎症性疾患でもJAK阻害薬は内服薬として開発されてきました。我々は、「皮膚への濃度を強くかつ全身への副作用を抑える」というステロイド外用薬と同じ概念で、JAKを阻害する外用薬があっても良いのではないかと考え、外用薬としてデルゴシチニブの開発に携わりました。

デルゴシチニブの全体像用法・用量、位置づけ、他剤併用をチェック

ここで、デルゴシチニブの概要を紹介します(図1)。他剤との違いや併用、安全性について確認してみてください。また、特に注意したい安全性のポイントを表4にまとめます。

経口JAK阻害薬アトピー性皮膚炎での可能性

最近、外用ではなく経口のJAK阻害薬もアトピー性皮膚炎の治療薬として登場しつつあります。2020年12月にバリシチニブ(オルミエント®)が、アトピー性皮膚炎で初の経口JAK阻害薬として適応追加されました。バリシチニブは関節リウマチで使用されてきた薬剤です。

また、承認申請中の薬剤としてアブロシチニブが控えています。ウパダシチニブは、先日国際臨床第3b相試験において主要評価項目を達成しています。

JAKには、JAK1、JAK2、JAK3とチロシンキナーゼ(Tyrosinekinase:Tyk)2の合計4分子がありますが、それぞれのJAK阻害薬によって、これらのパスウェイの抑え方はそれぞれ異なります。現状はまだですが、将来的には、アトピー性皮膚炎におけるJAK阻害薬の使い分けの指標や基準が見出されることになると思われます。

一方、JAK阻害薬以外の薬剤としては、IL-31受容体阻害薬であるネモリズマブやIL-13阻害薬であるトラロキヌマブなど複数の薬剤が、臨床への応用を期待されています。

全身の発疹には入院という選択肢教育入院は患者に成功体験をもたらす

アトピー性皮膚炎は慢性疾患ではありますが、入院による治療も実施することがあります。対象は、ヘルペスウイルス感染症を併発してしまっている方や、全身に発疹を来しているような方など、重症の患者さんです。こうしたケースでは集中的に全身を治療することが必要です。

また、治療方法についての理解が不足していたり、ご家族のサポートが得られずに外用薬の塗布がうまくいかない方、治療による症状改善を諦めてしまっている方などには、教育的な観点で入院していただくこともあります。この教育入院で正しい疾患や治療の理解を促すことで、やがて患者さん自身で正しく治療を実施できるようになります。また症状が改善するという成功体験は、その後のアドヒアランス向上に大きく貢献するのです。

正しく塗るというハードル皮膚疾患共通の難しさ

投与に手間がかかることや、軟膏のべとつきなどの使用感の悪さから、一般的に外用薬は経口薬より処置が大変と言われます。その上、アトピー性皮膚炎の治療は長期間にわたりますので、どうしてもアドヒアランスが低下しやすい傾向にあります。

私の臨床経験では、アトピー性皮膚炎の患者さんは全般的に外用薬の塗布量が少ないと感じられます。外用薬の塗布量の目安として、薬剤師さんには知られているかとは思いますが、FingerTipUnit(FTU)の概念を今一度患者さんに周知いただけると助かります。

ステロイド忌避に対する意識改革を

外用薬の塗布量が少ない背景には、いまだに「ステロイド忌避」が潜在意識としてあるのかもしれません。数十年前まではステロイド外用薬の使用方法がよく解明されておらず、やたらに強いステロイド外用薬を使用し続けリバウンドが生じたりしていました。しかし現在は、ガイドラインで重症度や部位ごとに、使用すべきステロイド外用薬のランクが提示されています。ステロイド外用薬の副作用に関する知見も集積されています。ステロイドの危険性ばかり謳う誤った知識を訂正し、こうした正しい知識を周知することが重要です。

再燃させないための新たな概念プロアクティブ療法

アトピー性皮膚炎で浸透し始めている治療概念に、「プロアクティブ療法」というものがあります。プロアクティブ療法は、ステロイド外用薬やタクロリムスで症状を寛解させた後も、定期的に(週2回程度)ステロイド外用薬やタクロリムスを塗布し続けるという方法です。その間、もちろん保湿外用薬によるスキンケアも併用します。

アトピー性皮膚炎では、炎症が軽快して一見正常になったような部分も、皮膚内部には炎症細胞が残存しています。そのため、急に外用薬の塗布をやめてしまうと、再び炎症が起きてそれに対し外用薬を再び塗布する、ということが繰り返されます。プロアクティブ療法は炎症の再燃を予防することが可能な治療法として、アトピー性皮膚炎では推奨されています。

ただし、ステロイド外用薬やタクロリムスの連日塗布からプロアクティブ療法への移行は、皮膚炎が十分に改善した状態で行われることが重要です。塗布する範囲、連日投与から間歇塗布への移行時期、終了時期等については、症状やその経過、検査値から総合的に判断します。

客観的な指標として血清TARC値を活用

近年は、アトピー性皮膚炎の診断や病勢判定として、血清TARC値というバイオマーカーが使用されるようになりました。このTARC値は、患者さんの治療のモチベーションを上げるツールとしても有用です。

アトピー性皮膚炎では、症状の増悪が繰り返されるがゆえに、治療効果や現在の症状の状態がどの程度なのかわかりにくいと患者さんが感じられることがありますが、TARC値によって、その時の病態が客観的に示されます。たとえば、患者さんのTARC値が1,000だったものが、次の受診時には500になっていたとすると、症状の改善を「よくなっていますね」という言葉だけではなく、数値で示すことができます。こうした客観的な指標の共有は、患者さんが治療効果を実感し、アドヒアランスの向上にも繋がります。

アトピー性皮膚炎におけるオンライン診療の可能性

オンライン診療については、その是非を当科でもディスカッションしているところですが、初診を除き、アトピー性皮膚炎の診療ではオンライン診療を実施しています。オンライン診療の利便性の高さは言うまでもなく、コロナに限らず、遠方で来院しづらい方や、頻繁に来院の時間をとりづらい患者さんにとっては、非常に有用だと思います。

一方で、アトピー性皮膚炎の対面の診察では、肌の質感の視診、肌のザラつき感の触診、滲出性紅斑から発生する臭いなど、五感を使って実施します。画面越しにはわかり得ない情報で診察していることは確かですので、それが実施できないデメリットはあります。

こうしたインフラ面での課題はありますが、オンライン化は進んでいくと思います。諸外国では皮膚科でのオンライン診療はもっと一般的で、特にニュージーランドには皮膚科医が数十名ほどしかおらず、オンラインが診療の中心です。日本でも今後は拡大していくでしょう。

医師とのコミュニケーションが薬剤の効果を最大限にする

外用薬では、主成分が同一でも基剤や添加物の違いによって、効果や薬剤の伸び加減、使用感などが変化する可能性があります。後発品に変更することで、患者さんが治療効果に対し誤解して治療を中断してしまうケースがあるのです。

こうした問題では、医師と薬剤師のコミュニケーションが重要です。医薬分業になり、薬局で患者さんがどういった指導を受けているかが見えず、薬局によって使用するジェネリックメーカーも異なります。外用薬を後発品に変更される際は、医師側に確認することも大切かもしれません。

一方で、薬剤師の皆さんが適切な説明や指導を行ってくださることで、医師側の指導が補完され、患者さんの理解に繋がることも多く、非常に感謝しています。薬剤の適切な使用は、薬剤の最大限の効果を引き出します。疑義照会をいただいて嫌な気持ちを持つことは全くありませんので、不明な点やおかしな点は、遠慮なく問い合わせていただきたいと思います。

本稿で紹介しましたとおり、アトピー性皮膚炎は、デュピルマブの発売された2018年から2025年頃にかけて、治療の選択肢が大幅に増加します。新しい薬剤の情報をキャッチアップし、医師とともに患者さんの治療をサポートしていきましょう。